「“げろ吐き”は1回で出し尽くすのが鉄則だが」赤字予想5000億円から1.5兆円に…農林中金を襲った2つの“想定外”とは?

AI要約

農林中央金庫が未曾有の経営危機に直面しており、2025年3月期の赤字見込みは予想を大幅に上回ることが明らかになっている。

金融機関が不良債権を処理する際には、1回で損失を集中的に処理することが成功の鍵であるとされる。農林中央金庫は巨額の不良債権処理を行うことで財務基盤を立て直す方針を示している。

2024年の決算では外貨調達コストの増大や含み損の拡大により純損益がマイナスとなり、資本増強が必要な状況となっている。

「“げろ吐き”は1回で出し尽くすのが鉄則だが」赤字予想5000億円から1.5兆円に…農林中金を襲った2つの“想定外”とは?

未曾有の経営危機に直面している農林中央金庫。2025年3月期における赤字額は、当初5000億円程度と考えられていたが、最終的にはそれを大幅に上回ることが予測されるという。このような苦境に陥ったのは何が原因か。

◆◆◆

「“げろ吐き”は1回で、すべて出し尽くすことが成功の鍵だ」

 金融機関が不良債権を処理する際の鉄則である。

 損失を集中的に処理(げろ吐き)することで、一時的に巨額の赤字を抱えることになる。だが、一気に膿を出し切って抜本的な立て直しを図ることで、後のⅤ字回復も可能となり得る――それを表した言葉である。

 総資産は約100兆円、市場運用資産残高は約56兆円。農業、林業、漁業などの協同組合を統べる中央金融機関として、系統金融機関のピラミッドの頂点に立つ農林中央金庫(奥和登理事長、東大農学部卒、1983年入庫)がいま、巨額の不良債権処理の問題に直面している。

「(JAなどの)会員の期待をはるかに下回ったことに、非常に責任を感じている」

 5月22日、奥氏は2024年3月期決算の記者会見でこう述べた。

 この日、農林中金は翌2025年3月期の連結純損益が5000億円超の赤字に転落する見込みだと発表した。多額の含み損を抱えている保有債券を売却して、損失を計上。財務基盤を強化するため、1兆2000億円規模の資本増強も行う方針だと明らかにした。

「実際に見込み通りの赤字になれば、リーマン・ショックの影響を受けて5721億円の赤字となった、2009年3月期以来の数字となります。当時、有価証券の運用で損失が拡大し、1兆9000億円の増資を実施しました」(経済部記者)

 2024年3月期決算は、純利益が前年比24.8%増の636億円だった。だが欧米など海外金利の上昇で、外貨調達コストが増大。さらに低金利の頃に購入した債券の価値が下がり、3月末時点で含み損が2兆1923億円にものぼった。

「債券は売らずに満期まで持ち続ければ損失は発生しません。しかし、そのまま持っていると、収益性が悪化する恐れがあります。そのため今年度中に一部を売却し、金利の高い米国債などに振り向ける予定です」(同前)

 5月24日、坂本哲志農林水産相は閣議後の記者会見で、「財務の健全性は確保されている。金融市場の動向等を踏まえつつ、農林中金の経営を十分注視する」と述べ、懸念を払拭しようと努めた。