北陸新幹線の延伸ルートでちゃぶ台返し?終わったはずの「米原ルート案」が再燃したワケ

AI要約

米原ルートへの変更を求める提言書が国土交通相に提出された。

小浜・京都ルートと米原ルートの整備新幹線着工条件や投資効果についての比較。

与党は小浜・京都ルートを維持し2025年度末までの着工を目指す方針を決定。

北陸新幹線の延伸ルートでちゃぶ台返し?終わったはずの「米原ルート案」が再燃したワケ

 日本維新の会国会議員団の馬場伸幸代表と教育無償化を実現する会の前原誠司代表は6月18日、北陸新幹線の敦賀以西について、着工のめどが立たない「小浜・京都ルート」ではなく「米原ルート」に変更することを求める「北陸新幹線大阪延伸ルートに関する提言書」を、斎藤鉄夫国土交通相に提出した。なぜ今、米原ルート案が「再燃」したのか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 整備新幹線の着工で 満たすべき5つの条件

 小浜・京都ルートは2016年の与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームで決定したもので、敦賀から小浜、京都を経由して新大阪駅に乗り入れる。対する米原ルートは対抗馬として検討されたもので、敦賀から琵琶湖東岸を経由して米原駅に接続する案で、当面は米原乗り換えになるが、将来的には東海道新幹線への直通運転を目指す。

 「北陸新幹線大阪延伸ルートに関する提言書(以下、提言書)」は、小浜・京都ルートは巨額の事業費や難工事、地下水脈への影響等の懸念が強く、環境アセスメントは遅れ、事業遂行の展望が開けないと主張。環境アセスメントのハードルを越えたとしても、そもそも着工の5条件を満たすのか不透明と指摘した。

 整備新幹線の着工は以下の5条件を満たす必要がある。

 ・安定的な財源見通しの確保

・収支採算性

・投資効果

・営業主体としてのJRの同意

・並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意

 ここで問題になるのが「投資効果」だ。これは開業後50年間の供給者便益(鉄道事業者の便益)と利用者便益(所要時間短縮など)の合計を、費用(建設費と車両費、維持更新費などの合計)で割るもので、比率(B/C)が1以上であれば、投資する価値があると判断される。

● 小浜・京都ルート着工は 現状ルールでは困難

 2016年の試算では、小浜・京都ルートは総費用8000億円に対して総便益が8600億円、B/Cは1.1とされており、ギリギリだった。近年の資材・人件費高騰で費用が膨らむのは間違いないので、B/Cが1を割る小浜・京都ルートの着工は困難だ。

 対する米原ルートは距離が短いため、事業費は4分の1、工期は3分の2で済む。所要時間や運賃など便益は不利だが、B/Cは2.2と算出されていた。米原ルートの事業費も膨らむはずだが、仮に費用が倍になっても1以上を確保できる計算だ。着工条件を満たすのは米原ルートしかない、というのが米原派の主張だ。

 そもそも2000年代前半まで、森喜朗元首相をはじめとする北陸政財界、橋下徹大阪府知事(当時)、関西広域連合、そしてJR西日本も、早期着工・早期開業を重視して米原ルートを本命視していた。だが、過密ダイヤの東海道新幹線に乗り入れる技術的ハードルが高く、米原乗り換えが長期化するおそれがあった。

 こうした中、国交省は2012年、北陸新幹線に在来線を走行可能なフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を導入し、敦賀開業時から京都・大阪方面への直通運転を目指す方針を示した。米原ルートは開通しても乗り換えが残る、小浜ルートはフリーゲージトレインで利便性を確保しつつ事業化できる、そんな牽制の意味合いもあったのだろう。いずれにせよ、2016年に営業主体となるJR西日本が小浜・京都ルートを提示したことで事実上、議論は決着した。

 では、それを再度ひっくり返して米原ルートに戻すことは可能なのか。関西に強い影響力を持つ野党第2党の動きは無視できないが、小浜・京都派は、ルート選定は終わった話であり、議論すら起きていないと主張している。沿線自治体では6月20日、石川県議会がルート再考を国に求める決議案を可決したが、石川県の馳浩知事は小浜・京都ルートを支持しており、富山県、福井県、滋賀県、京都府も同様だ。

 与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは6月18日、現行の小浜・京都ルートを維持し、米原ルートへの変更には応じないことを確認し、2025年度末までの着工を目指す方針を決定した。

 最大のネックは「投資効果」のクリアだが、「B/Cは形骸化している」「B/Cの計算方法を見直すべき」「便益をより広い範囲でとらえた方が良い」との声があり、ルールそのものを変えてしまえば何とでもなる、というのが本音だろう。