日本人の残念なビジネス英語その1:桑野氏の「ハイコンテキストすぎる」納期設定

AI要約

国際ビジネスにおけるコミュニケーションの難しさには、日本のハイコンテキスト文化と海外のローコンテキスト文化の違いが影響している。

桑野氏の例を通じて、海外側に空気を読むことを期待しすぎることが、コミュニケーションの遅延を引き起こす可能性があることが示されている。

日本と海外のコミュニケーションスタイルの違いを理解し、適切な対応をすることが、国際ビジネスでの円滑なコミュニケーションに必要である。

日本人の残念なビジネス英語その1:桑野氏の「ハイコンテキストすぎる」納期設定

国際的なコミュニケーションのコンサルティングを行っている筆者は、国境をまたぐコミュニケーションが円滑に進まないケースを幾度となく見てきた。この要因には当然、英語力そのものによるところもある。また交渉技術などの側面もある。

しかし、日本ではとても優秀なビジネスパーソンであり、一定以上の英語力と交渉技術があるにもかかわらず、国際ビジネスの場ではコミュニケーションの遅延や破綻を経験している人が少なくない。

■日本はハイコンテキスト文化

実は国際ビジネスの場で直面するコミュニケーションの難しさの背後には、「空気を読む」日本のコミュニケーション文化が深く関わっている。

日本語と英語ではコミュニケーション文化が大きく異なる。日本の「空気を読む」コミュニケーション文化は、学術的には「ハイコンテキスト文化」と分類される。この「空気」のことを、学術的には「行間(コンテキスト)」と説明し、日本のコミュニケーション文化は「行間が広い」と説明するのである。

一方、英語によるコミュニケーション文化は、日本との対比で見ると「ローコンテキスト文化」と分類される。日本のコミュニケーションのように「空気を読む」必要性は下がり、行間をなるべく狭めたコミュニケーションとなる。

このコミュニケーション文化の差によって、国際ビジネスのコミュニケーションにひずみが生じる理由は、大きく分けると次の2つに分類される。

1.「海外側に空気を読んでもらうことを期待してしまった」(本連載では「その1(本稿)」で扱う桑野氏の2つの例、「その2」で扱う柳田氏の2つの例)

2.「日本側が空気を読みすぎた(本連載では「その3(本稿)」で扱う沼野氏の例)」

この2つがどのように国際市場におけるコミュニケーションを難しくさせてしまっているかを、実際のビジネスパーソン桑野氏、柳田氏、沼野氏(いずれも仮名)を紹介し、説明してみよう。

1.「海外側に空気を読んでもらうことを期待してしまった」:桑野氏の場合

会社・役職:日系コスメブランドM、プロダクトデザイン部 海外製造課

英語:初級

相談内容:海外製造拠点への指示出しを円滑にし、デザイン計画や生産計画に遅延を生じさせてしまうリスクを軽減したい

日系コスメブランドMで勤務する桑野氏が直面した国際コミュニケーションの難しさである。桑野氏はデザインおよび生産に至るまでのプロセスを担っている。コミュニケーションに必要以上に時間がかかることで、生産計画の進行に遅延が生じることに課題を感じていた。

桑野氏は、タイにある工場の担当者と商品デザインおよび生産管理のやり取りを日常的に行っている。出張機会などを通じて現地の担当者とは良好な関係にあるが、実際の業務のやり取りは全てEメールとなっていた。また、桑野氏の英語力は初級。いわば、「業務上仕方がなく」英語を使っている状態である。Eメールの読み書きでわからない表現は、Google翻訳を使用していた。

実際に桑野氏のEメールのやり取りを見せてもらうと、意図が間違って伝わったり、誤解を招くような英語表現での大きな間違いはなかったものの、「コミュニケーションの遅延を生じさせやすい」表現はいくつか見つかった。

桑野氏が直面したコミュニケーションの難しさが、日本と海外のコミュニケーション文化の違いから生じていることは明白だった。たとえば、日本のコミュニケーション文化を前提につい、「相手が空気を読もうとしてくれるはず」と思いこんだ上で、英語で発話しているのだ。学術的な説明では、「日本的な行間をそのまま英語に訳した」と説明できるだろう。桑野氏の「失敗」の例を2つ見ていこう。