【独自試算】ガソリン補助金終了で「家計負担が増える」都市ランキング!3位富山市、2位山口市、1位は?

AI要約

ガソリン補助金の終了に伴う家計負担の増加について懸念が高まっている。補助金の終了により、各都道府県のガソリン支出に大きな影響が出る可能性がある。

補助金の終了後、津市、山口市、富山市などガソリン使用量の多い地域では、年間支出が1万6000円を超える見込みであり、全国平均を1.5倍近く上回る負担となることが明らかとなった。

石油業界の価格設定の影響やガソリン使用量の減少などが考慮される中、消費者は価格比較アプリなどを活用し、自己防衛することが必要とされる状況が続いている。

【独自試算】ガソリン補助金終了で「家計負担が増える」都市ランキング!3位富山市、2位山口市、1位は?

 ガソリン高騰に対する負担を軽減するための、いわゆるガソリン補助金の継続が問われている。電気・ガス料金の補助金が5月末で終了し、家計への負担は増えた。補助金が終了した場合、ガソリンへの支出はいくら増えるのか。ランキング化すると実に面白い結果が分かった。【前後編の後編】(桃山学院大学経営学部教授 小嶌正稔)

● ガソリン補助金がなくなると 家計の負担はいくら増えるのか

 電気・ガスの補助金が5月末に終了したのに続いて6月、いわゆるガソリン補助金(燃料油価格の激変緩和事業)が終了に向かって動き出す可能性がある。石油業界を専門に研究してきた筆者は、この“支離滅裂”な政策には一貫して反対している。しかしながら、昨今のモノやサービスの値上げに苦しむ消費者にとっては、ガソリン代の負担軽減に役立ってきたのも事実だ(自動車ユーザーか否かの不公平感は甚大だが、本稿では横に置く)。

 では、補助金が終了したら、ガソリンの末端価格はいくらになるのか。『【独自試算】ガソリン補助金終了後の都道府県別「値上がり」ランキング!3位宮崎県、1位は?』では、各都道府県の消費者が生活の中でガソリン価格をどの程度に感じるかを「実感価格」として試算し、高い順にランキングした。 次のページでは、補助金がなくなると家計のガソリンへの支出はいくら増えるのか、もう1つのランキングを紹介しよう。ちなみに、電気・ガス料金の補助金が終了した影響で、24年度の電気・ガス料金は標準世帯で約3万円の負担増になるとの見通しだ(電気料金は、再生可能エネルギー普及のため料金に上乗せされる賦課金も24年度は増えるため)。

● 津市、山口市、富山市の支出増は1万6000円超 全国平均に比べ負担増は1.5倍近い

 表3は、総務省の家計調査(2人以上の世帯)の品目別都道府県庁所在市および政令指定都市調査結果(21年~23年平均)から、ガソリン使用量に補助金単価を掛け合わせて年間いくら支出が増えるかを試算したものである。

 ガソリンの世帯使用量のトップは長く山口市だったが、21年~23年の使用量では三重県の津市がトップとなった。年間使用量は津市が616リットル、山口市は614リットル、富山市が595リットル。ガソリン補助金がなくなると、この3市の年間支出増は1万6000円を超えることになる。全国平均が1万1427円であることを考えると、負担増は1.5倍近くなる。

 逆に影響が少ないのは、大阪市の3566円、東京都区部3803円である。大阪市と津市のガソリン代の差は実に4.7倍にもなり、別の見方をすれば、ガソリン補助金の恩恵を受けるのは地域によって大きな格差があることが分かる。

 なお、ガソリン価格は08年8月に過去最高値を付けたと記事前編で述べたが、実際にはガソリンの使用量が減っていることから、そのまま家計への影響とすることはできない。

 具体的には、08年8月の月間使用量は全国平均で46.6リットルだったが、24年4月は35.5リットルだった。自動車の燃費向上などもあって約25%程度も使用量が減少している。当時の全国平均単価193.9円(現在の消費税率に換算した価格)と今回の予測値の202円と比較しても、結果として支出金額は20%程度少なくなる。

● 消費者には高い価格に慣れてもらい ソフトランディングすればいい?

 24年6月11日に内閣府が発表したいわゆる骨太方針(原案)は、「2050年のカーボンニュートラル実現を宣言している中、2022年1月に緊急措置として開始し、今なお継続している燃料油価格の激変緩和事業については、中東情勢の緊迫化等を背景とした価格高騰リスクや様々な経済情勢を見極めるため、措置を一定期間講じつつ、早期の終了に向けて出口を見据えた検討を行う」と明記した。

 「今なお継続している」という表現は全くその通りで、G7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダおよびEU)の中でこのような政策をただ漫然と続けている国は日本だけ。脱炭素時代にも逆行する矛盾だらけの政策だ。一度始めたらやめられない政策(修正)能力の無さを自ら露呈している。一方で、「措置を一定期間講じつつ、早期の終了に向けて出口を見据えた検討を行う」というが、2年半も続けてきて今から出口を見据えた検討を行うの? いったい今まで何をされていたのですか? と、怒りを通り越してあきれてしまう。

 肝心の石油販売業界は、このまま値上がり分を価格に転嫁するのかというと、そうとも言えない。販売量が減少傾向にある中で、固定費の割合が高く、売上高が収益を左右するビジネス構造において、値上げすれば消費者は価格に敏感になることから、販売業者は値上げを遅らせる傾向にある。逆に価格が下がる局面では、他店に先んじて価格を下げることで販売量を確保しようとする。この価格設定の慣習が少なからず影響を与え、販売価格は地域の競争状況に大きな影響を受ける。

 一方、消費者は価格看板を表示していないガソリンスタンドは避ける。複数の価格看板を挙げていて分かりにくい店も避ける。今は便利なアプリもあるので積極的に価格を比較するなどして、消費者はある程度、自己防衛することもできる。

 他にも、目を光らせるべき点がある。業界紙によると、ある石油商業組合の理事長は組合の通常総会で、「(補助金が)廃止になると200円時代になる。その時になり、バタバタとならないように、今のうちに市況を構築し、(消費者には)高い価格のガソリンのマーケットに慣れてもらい、その価格にソフトランディングするという組合の活動をやり続け、それにシフトしていくのが組合の仕事ではないか」と述べた。これは、高価格を維持することでソフトランディングするという、ほぼ価格カルテルを促すとも思える発言をしている。

 結局、ガソリン補助金による国民生活の保護はお題目で、業界の意向をお伺いして実現する御用聞き政治によって、価格表示をはじめとして公正な競争環境は顧みられない状況が続いている。

 最後に、補助金は結局いつ終了するのか。激変を避けるためには時間が必要だという措置期間は、どのように設定されるのか。すでに、「早くて9月末、恐らく来年の4月まで続くのでは」という声が、“業界のご意向”として筆者の耳にも聞こえてくる。恐ろしいことだ。

 この2年半、激変を避けるための方策はいくらでもあったはず。しかし、政府関係者は形だけの話し合いに終始し、無策のままだ。一時、トリガー条項の凍結解除(発動)の動きもあった。が、現在のトリガー価格は想定とは異なる価格水準を前提としており、初めから検討に値しない。トリガーの発動を検討するなら、まずは激変緩和とトリガーの在り方から議論しなければならなかった。

 もしかすると、この2年半の無策がずっと繰り返されるのかもしれない。賃上げ、日銀の利上げ、円安などと並ぶ重要トピックとして注視する必要がある。