映画界の悪習打破へ是枝監督ら奔走、民間ファンドへ投資も呼び掛け

AI要約

映画監督の是枝裕和氏が日本映画業界の労働環境やビジネス慣行の改革を訴えている。

現場では長時間労働や低賃金が常態化し、映画製作の質の低下や才能ある人材の離れる可能性が高まっている。

資金調達や労働環境改善が急務であり、韓国の例を引きながら政府支援やファンド導入の必要性を訴えている。

(ブルームバーグ): 映画監督の是枝裕和氏が、業界の過酷な労働環境や閉鎖的なビジネス慣行に風穴を開けようと奔走している。監督仲間らと政府や大手配給会社に取り組みを促す一方、民間が設立した100億円規模の映画製作ファンドへの参加を内外の投資家に呼び掛けている。

2018年の仏カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した「万引き家族」で知られる是枝氏は7日のインタビューで、日本の製作現場について「とてもブラックでほとんど休めない」と指摘した。このままでは「若い人たちが映画を職業として選んでくれなくなる危機感」から、改革に向け動き出したという。

大手を含む業界団体による機構も設立され、昨年から職場環境の適正化に向けた審査も始まったが、適正労働時間として合意したのは1日13時間。是枝氏によると、多くの現場で今も守られていない。監督仲間らと、労働面や製作を含めた映画界の問題解決のために大手4社の連盟団体に興行収入の1%を供出してほしいと求めているが、実現していない。

日本映画の製作現場では長時間労働や低賃金が常態化している。フランスや韓国などで改革が進む中、旧態依然とした働き方は才能ある人材を遠ざけ、質の低下でコンテンツの競争力を失うことにもつながる。両国で撮影した経験がある是枝氏は、「早急に手を打たねばまずい」と改革の必要性を訴えている。

資金調達

改革には予算確保が大きな課題となる。日本映画の資金調達は放送局や広告代理店など複数の企業が参加する「製作委員会方式」が一般的だが、各社の権益が優先されて現場に十分な利益が還元されていないと指摘されてきた。興行収入はシネコンの普及とともに増加してきたが、DVD販売など2次的な収益が急減し、1本あたりの予算は縮小傾向にある。

一方、労働環境改善が先行する韓国の場合、製作費が1.5倍から1.7倍に膨らんだと是枝氏は指摘する。00年代初頭から政府系組織が映画ファンドを主導し、民間部門の投資増加につなげた。ファンドを通じた政府の支援額は10年代の総製作費の30%を占め、投資を受ける会社は標準的な雇用契約や賃金の適正化が求められるため、映画産業の労働条件は飛躍的に改善した。