率直に問う 救急車「有料化」は、本当に“不適切利用”を撲滅できるのか?

AI要約

2024年問題は医療界の働き方改革であり、勤務医の労働時間を規制する取り組みである。

救急車の受け入れ体制について、労働時間の規制が救急体制に影響を与える可能性がある。

救急車の有料化をめぐる議論や取り組みが進行中であり、その効果や課題が検証されている。

率直に問う 救急車「有料化」は、本当に“不適切利用”を撲滅できるのか?

 医療界の「2024年問題」とは、勤務医の時間外・休日労働を規制する「働き方改革」である。これまでは「医療の労働規範」に基づき、「患者の命への責任と自己研鑽」を重視し、24時間勤務や36時間勤務などの労働環境が問題視されてきた。

 そこで、「社会の労働規範」に沿って、勤務医の労働時間・時間外労働の上限を年間960時間(救急医療などは1860時間)とする働き方改革が2024年4月から実施されている。その影響は医療制度全体に及ぶが、特に注目されるのは

「救急車の受け入れ体制」

である。実は、総務省消防庁は「令和5年度救急業務のあり方に関する検討会報告書」の「救急需要の適正化に関する検討」の項で、まとめとして次のような一文を公表している。

「救急需要は国民の年齢・疾病構造、救急医療への理解度、費用負担、医療水準等によっても変動すると考えられる。(略)医師の働き方改革、医師偏在対策、さらにかかりつけ医機能の強化にも救急体制は大きな影響を受けるだろう」

 救急車を呼んでも来ないという状況に対して、解決策は「救急車の有料化」しかないのだろうか――。このような世の中にならないよう、制度のボトルネック(悪影響を与えている部分)をリポートすする。

「救急車の適正利用」を訴えるポスターが商業施設に掲示され、救急需要のひっ迫と救急車の適正利用促進が不可避であることは、もはや世間の常識である。救急車のひっ迫は、

「有料化」

の議論を生む。高齢者や障がい者などへの支援に携わってきた筆者(伊波幸人、乗り物ライター)は以前、当媒体に「救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは」(2024年1月12日配信)という記事を寄稿し、救急需要の現状と課題、有料化の是非についてリポートした。有料化の賛否や不適切利用を抑制する効果の有無については当記事を参照してもらいたい。

 その後、注目すべき進展があった。三重県松阪市では2024年6月から、市内の三つの中核病院を対象に、救急車で運ばれたが入院の必要がなかった一部の患者から7700円の「選定療養費」を徴収するとしたのだ。

 しかし、救急車の有料化の“効果”には疑問がある。実際、松阪市の搬送件数は1106件から1648件の間で推移しており、目に見えて減少していない。ただ、実際に救急車の有料化を行っていないため、これは“疑似実験”であることに注意する必要がある。

 画像の台北市も、2012年から不適切な救急車利用に対して2000円から6000円を徴収する制度を実施している。有料化以降、救急車の搬送件数は微増傾向にあり、検証する必要がある。つまり、1万円までの有料化では短期的な効果が少ない可能性があり、多面的なアプローチが重要というわけだ。

 従って、後述する「医療の出口問題」を含め、医療制度全体のボトルネックを検討・議論することが重要なのだ。