80億円集めた社債勧誘は「違法」──スタートアップは要注意、意外な“増資の落とし穴”

AI要約

東京都中央区の資産運用コンサルティング会社とその保証会社が、社債を違法に勧誘し80億円もの資金を調達した件で逮捕された。

違法行為には社債に対する誤った保証や高い配当の広告、無登録での投資募集が含まれている。

金融商品取引法に基づき、公募時には登録が必要であり、無意識の違法行為を避けるためには注意が必要。

80億円集めた社債勧誘は「違法」──スタートアップは要注意、意外な“増資の落とし穴”

 東京都中央区の資産運用コンサルティング会社、THE GRANSHIELDとその保証会社トラステール(東京都千代田区)の役職員ら計8人が、トラステールの社債を違法に勧誘し、80億円もの資金を調達した件で逮捕された。

 コロナ禍で経営困難に陥った医療機関などの信用保証事業に関連して、同社の社債を実質的に元本保証かつ、年利20%という非常に高い配当が得られると広告した疑いだ。

 トラステールが社債を募集した際に問題となった行為は、大きく3つに分けられる。その中には、一般的な企業の役職員でも犯してしまう可能性がある行為が含まれていた。具体的にはどのような行為が問題視されたのか。

 まず、問題となった行為のうち“論外”といえるのは2つだ。社債について「元本保証」をうたう行為と、調達した資金を他の経費などに流用する行為である。

 最後の1つである「無登録で社債の投資を募集した」という点については、気付かないうちに違法行為となっている例もあり、注意が必要だ。

 そもそも、会社が資金調達のために債券を募集する際、一定の規模を超える募集行為が発生する場合は、金融商品取引法上の登録が必要となる。

 具体的には、新たに発行される有価証券の購入申し込みの勧誘を、6カ月間に50人以上の者に対して行う場合、その募集行為は「公募」として第二種金融商品取引業者として財務当局に登録する必要がある。金融商品取引業者とは、主に証券会社や投資ファンドなどの機能を有する企業体のようなイメージだ。

 今回、両社の役職員が逮捕された容疑は、第一には無登録で有価証券である社債の公募を行ったことにある。

 「半年で50人以上に募集を行う」と聞くと多いと感じるかもしれないが、この50人とは、実際に投資することを決定した人ではなく、投資話を持ちかけられた人数を指す。従って、仮に今回の事例で、誰も同社の債券を買わなかったとしても、セミナーなどを開催した時点で金融商品取引法上は、違法状態であったというわけだ。

 ここで注意しておきたいのが、このような「公募」を無意識のうちに行ってしまうリスクだ。社債のような一般人になじみの薄い金融商品でなくとも、「自社株」などへの増資を親戚や友人、取引先などにお願いし過ぎてしまうと、それが50人を超えた時点で金融商品取引法違反となる。

 これを避けるためには、まず自分の会社が発行している債券や株式などへの投資をむやみに他人へすすめないことだ。場合によっては、資金を集めるために知り合いに片っ端から声をかけるよう依頼されるケースもあるかもしれない。その時は、当事者に対して金商法上の募集行為について理解を促すことが賢明だ。

 49人以下の投資者を対象とする小規模な募集を「私募」というが、この場合は登録が必要ない。また、一定の資本要件などを満たした特定機関投資家(いわゆるプロ投資家)は、50人の人数に含まれない。資金が潤沢ではないスタートアップ企業であれば、ベンチャーキャピタルなどを順に訪問し、自社への投資をプレゼンすることもあるだろう。プロの投資家であれば50社を超えても問題ない。

 近年「株式投資型クラウドファンディング」という支援金に対して株式が付与されるタイプのクラウドファンディングの規制が緩和された。Webまたは電子メール経由での募集であることに加え、「調達額は1年間に1億円未満まで」「1投資家の投資額は1年間に50万円まで」といった少額に抑える要件を満たせば、不特定多数への募集も登録なしで行える。こうした仕組みを検討してもよいだろう。