分断広がるインド社会、モスク跡地にヒンズー寺院に「夢がかなった」「悪夢だ」

AI要約

インドで6月4日、5年に1度の下院総選挙の開票が行われる。モディ首相への支持が厚く、与党BJPが優勢だ。ヒンズー教とイスラム教の対立が浮き彫りになり、モスク跡地にヒンズー教寺院が建立されたことで社会の分断が深まっている。

ヒンズー教徒らがアヨディヤに建立された寺院を歓迎し、数百年の歴史がある寺院に1500万人以上が訪れるなど盛況だが、イスラム教徒からは地域への迫害や不安が広がっている。

BJP政権はヒンズー教徒の利益を重視しており、アヨディヤの寺院建立を公約に掲げている。対立が深まる中、インドの世俗主義が揺らぎ、今後の情勢が注目される。

分断広がるインド社会、モスク跡地にヒンズー寺院に「夢がかなった」「悪夢だ」

インドで6月4日、5年に1度の下院(定数545)総選挙の開票が行われる。モディ首相への支持は厚く、選挙戦は与党インド人民党(BJP)が優勢だ。モディ政権はヒンズー教の理念による国家統合を目指し、国内では少数派イスラム教徒が強く反発。インドの世俗主義が揺らぐ中、モスク(イスラム教礼拝所)跡地に1月、ヒンズー教寺院が建立された北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤでは社会の分断が垣間見えた。(アヨディヤ 森浩)

■「ヒンズー教徒の夢」5カ月で1500万人

「ヒンズー教徒の夢がかなった。数百年間、この地に寺院を望んでいた」。寺院前で入場を待っていたスダ・シャルマさん(50)は寺院建立を歓迎した。シャルマさんは家族5人で自宅からバスを乗り継いで20時間以上かけてアヨディヤを訪れたという。

気温が40度を超える中、5月下旬のこの日、数万人の信者が集まった。1月の建立以来、寺院の来訪者は既に1500万人を超えた。「夢がかなった」とは大げさではなさそうだ。

アヨディヤでは16世紀、イスラム系王朝のムガル帝国がモスクを建立した。ヒンズー教徒団体は20世紀に入り、モスクのある地点がヒンズー教の聖地だと主張。1992年に一部信者が暴徒化してモスクを破壊し、全土で2千人以上が死亡する暴動に発展した。

2014年発足のモディ政権はヒンズー教徒の利益を最重要視し、アヨディヤでの寺院建立を公約に掲げた。選挙に間に合わせるように今年1月に行われた落成式典でモディ氏は「何千年経っても、人々はこの日を忘れないだろう」と万感の思いを込めた。「人々」とはヒンズー教徒を指すことは明らかだ。

■イスラム教徒は「侵入者」

「古くからのモスクはもう再建されない。悪夢だ」。寺院周辺のにぎわいの一方、イスラム教徒の男性は暗い表情を浮かべた。取材に応じた地元イスラム教団体幹部のモハマド・カドリさん(32)は、「インドのイスラム教徒の未来は危険にさらされている」と憂慮した。

カドリさんによると、アヨディヤには寺院建立前からヒンズー教徒の流入が進むと同時に、イスラム教徒への迫害が広がったという。BJPの政治家によって、地域のモスクへの水の供給が遮断され、ヒンズー教徒による襲撃事件も相次ぐ。何者かによる暴行を2度受けたカドリさんは「ヒンズー教徒は聖地アヨディヤに住むイスラム教徒が邪魔で仕方がない」と話した。