フランスの経済学者が断言「活動家は脱成長論を声高に叫ぶが、それは国を衰退に追い込むだけだ」

AI要約

フランスで脱成長論が広まっているが、一部の経済学者は警鐘を鳴らす。

米国とフランスでは低炭素社会への移行への考え方に大きな違いがある。

脱成長戦略が地球全体の二酸化炭素排出量に対して効果がない可能性があるという懸念がある。

フランスの経済学者が断言「活動家は脱成長論を声高に叫ぶが、それは国を衰退に追い込むだけだ」

「脱成長」とは、気候変動や格差を生む資本主義から脱しようという考え方だ。これはフランスの経済哲学者であるセルジュ・ラトゥーシュが提唱した理論だが、同じくフランスで著名な経済学者のオギュスタン・ランディエは、脱成長を唱えすぎるのも問題だと指摘している。仏誌「ル・ポワン」がインタビューした。

オギュスタン・ランディエはフランス屈指の経済学者の一人だ。パリ高等師範学校卒業後、数学と哲学の大学教授資格を取得し、その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学の博士号を取得した。現在はHEC経営大学院(パリ)のファイナンスの教授である。この人が発言するときは、耳を傾けたほうがいい。

そんなランディエが昨今、憂慮するのは、フランスの論壇で「脱成長」を説く論者が幅を利かせていることだ。

ランディエに言わせれば、「脱成長」を論じる自虐的な傾向はフランス独特なものであり、それが原因でフランスが袋小路に迷い込んでしまうおそれがある。フランス以外の国に目を向ければ、米国や中国を筆頭に、どこの国も環境にやさしいテクノロジーへの投資を増やしながら、地球温暖化と闘おうとしているという。

──あなたは1年ほど前、MITの経済学者ダヴィッド・テスマールと一緒に文章を書き、米国とフランスでは低炭素社会への移行に対する考え方が「きわめて異なる」と指摘しています。

ダヴィッド・テスマールと私は、それぞれ米国とフランスの代表的な高等教育機関の教授です。そのため、米国とフランスの違いがかなり大きくなっているのが、はっきり見えるのです。

米国では「脱成長」という言葉は、存在していないも同然です。一握りの経済学者が知っているだけですし、それも特殊な経済学者に限られています。じつはこれは米国だけでなく、欧州以外の国では、ほとんど同じ状況です。米国でも、中国でも、脱成長こそ実施すべき地球温暖化対策だと論じても、それを真に受ける人はいません。

一方、フランスでは、猫も杓子も脱成長を論じます。エコール・ポリテクニーク(理工科学校)やアグロ・パリ・テック(パリ生命・食糧・環境科学技術大学)、パリ政治学院といったエリートの高等教育機関でも、脱成長を主張する学生の一団が卒業式を妨害したりしました。

活動家は、しばしば石油メジャーのトタルエナジーズやLMVHといった大企業を槍玉に挙げています。フランスの主要メディアの全国放送を見ても、議論のなかで脱成長という語句が出てくるのは、まったく珍しくありません。

──米国とフランスの考え方が異なるのは、なぜ問題なのですか。

脱成長の話に大きな矛盾があるからです。フランスは人口6770万人の国であり、世界全体の二酸化炭素排出量を見ると、フランス人が排出している割合は微小です。

グローバル・カーボン・プロジェクトのデータによれば、フランスの二酸化炭素排出量は、世界全体の0.9%にあたります。言い換えると、フランスが一国だけで脱成長戦略を実施しても、地球全体の二酸化炭素排出量はほとんど変わりません。しかし、フランスの経済状況は他国と比べて、著しく悪化してしまいます。

ダヴィッド・テスマールと私は、気候変動対策が重要かつ喫緊の課題だということを否定しているのではありません。ただ、気候変動対策とは、テクノロジーを開発するための時間との競争だと認識すべきだと主張しているのです。

──昨今のフランスでは、そう主張をするのは大変なことなのですか。

このテーマで論争に巻き込まれるのは御免だという消極性がかなり見受けられます。

もちろん活動家には、気候変動の問題への人々の意識を大きく変えた功績があります。しかし、昨今は、フランスの政治討論の場で、活動家の主張が幅を利かせすぎているのです。

たとえばいま、フランスのニュース週刊誌が核融合こそ未来のテクノロジーだと謳う特集を組んで、その特集を表紙にしたら、何が起こるでしょうか。SNS上で大規模な抗議運動が始まるのは目に見えています。気候変動の問題はテクノロジーでしか解決できないと言うのは、ほとんどタブーになっているのです。

とりわけ大学やメディアでは、その傾向が強い。気候変動はテクノロジーで解決すべきだと言うと、どうして質素な生き方を選ぼうとする人のやる気をそごうとするのかと非難されます。でも、質素な生き方をするだけでは、問題解決には充分でありません。どうしてもイノベーションを起こすための、膨大な努力が必要なのです。

──気候変動対策はテクノロジーで百パーセント対処できるとお考えですか。

もちろん人間の行動を変えなければならない局面もたびたび出てくるはずです。ある種の製品の利用を減らしたり、ゼロにしたりしなければならないことも出てくるでしょう。

ただ、それができるようになるのは、その製品よりも環境にやさしい代替品が出てきたときだけです。その費用も決して安くはありません。フランスのような国の中産階級には、この費用の問題が重くのしかかるはずです。

「質素な暮らしをしましょう」を呼び掛けても、それについてくる地域は、欧州をのぞくと、世界にはありません。そんな状況でイノベーションの道を選ばなかったら、これは負け戦でしかないのです。

気候変動対策の肝は、環境にやさしいテクノロジーです。しかも、そのテクノロジーは、想定より早く出現することも期待できます。新型コロナのワクチン開発のスピードには目を見張りました。想像をはるかに凌駕するペースでワクチンを市場に出せたわけですからね。

これからのテクノロジーで何ができるかを考えるとき、過去の眼鏡から物事を見てはなりません。それから経済成長とは、必ずしもモノを作ることだというわけでもありません。無形のもの(ソフトウェアやサービス)でも経済は成長します。フランスはすでにそのような経済になっているのです。