【原油価格70ドル割れ】もはや市場は地政学リスクに無反応、世界4位カナダ産原油の輸出拡大が価格下落圧力に

AI要約

原油価格が70ドルを下回り、需給のバランスや地政学リスクの影響が注目される状況。

リビア情勢の沈静化やカナダ産原油の輸出拡大などが原油価格下落に寄与している。

カナダの原油生産量増加やアジア地域向けの輸出見込み、需要サイドの懸念が取りざたされている。

 原油価格が1つの節目である1バレル=70ドルを下回っている。

 主要消費国で景気の先行きへの警戒感が高まっているうえに、懸念されていたリビア情勢が国連の仲介により沈静化したほか、カナダ産原油の輸出拡大が見込まれている。

 ハマスとイスラエルの停戦交渉の行方など地政学リスクには市場はあまり反応しなくなっており、価格下落圧力は今後も強まりそうだ。

 (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週半ばから1バレル=70ドル割れで取引されている。一時、68ドル後半に下落し、昨年12月以来約9カ月ぶりの安値を付けた。供給途絶の懸念が後退する中、主要消費国の景気の先行きへの警戒感が高まっている。

 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 ブルームバーグによれば、石油輸出国機構(OPEC)の8月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2706万バレルだった。リビアの生産量が前月に比べて日量15万バレル減ったことが主な要因だ。クウェートやナイジェリアの生産増やイラクの生産枠の超過状態を打ち消した形だ。

 市場の関心を集めていたリビア情勢について劇的な変化が見られた。

 中央銀行総裁を巡る東西両勢力の対立のせいで「リビアの原油生産量は日量100万バレル(世界の供給量の1%に相当)減少する」と懸念されていたが、3日に行われた国連の仲介により「新たな中銀総裁を30日以内に選出する」との合意が得られ、事態が沈静化した。これを受けて「リビアからタンカーによる輸出再開の動きがある」との観測も広がり、原油価格は急落した。

 OPECの価格下支えの取り組みに水を差す存在も出現している。米国、サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界第4位の産油国となったカナダのことだ。

■ カナダ産原油の輸出拡大、9月以降日本にも

 カナダの昨年の原油生産量は日量565万バレル、10年前に比べて41%増加していたが、国際市場での存在感は薄いままだった。

 だが、北米西海岸につながるパイプラインの輸送能力が拡張されたことで状況は一変した。カナダには北米地域の製油所の集積地であるメキシコ湾岸に向けたパイプラインが敷設されていたが、輸送能力が実際の生産量を下回る状況が続いていた。

 長年、ボトルネックを抱えていたカナダだったが、政府系企業「トランス・マウンテン」が今年5月に西部アルバータ州から北米西海岸に原油を輸送するパイプラインを拡張したことで輸送能力は従来の日量30万バレルから同89万バレルと約3倍となった。

 これにより、太平洋を経由したアジア地域向けの原油輸出が増えることが予想されており、日本にも9月以降の輸出が見込まれている。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、カナダの2030年の原油生産量は日量651万バレルと昨年に比べて12%増加する見通しだ。

 カナダ産原油の性質は中東産原油と近く、アジア地域で競合が起きれば、原油価格の下落圧力になるというわけだ。

 一方、需要サイドの懸念は高まるばかりだ。