ロシアはなぜウクライナ軍の侵入を許したのか 世界に衝撃を与えた越境攻撃、最初の2日間を検証

AI要約

ウクライナがロシア領土に奇襲越境攻撃を行い、数万人のロシア人が避難を余儀なくされる。この出来事はロシアの安全保障に疑問を投げかけ、戦争の行方を変える可能性を持つ。

攻撃がどのように展開したかを時系列にまとめ、クルスク地方の要塞が容易に突破された理由やロシアの反応に焦点を当てる。

ウクライナ政府は緩衝地帯を確保し、ロシア軍を弱めることを目的としており、ゼレンスキー大統領も侵略者に対する圧力を説明している。

ロシアはなぜウクライナ軍の侵入を許したのか 世界に衝撃を与えた越境攻撃、最初の2日間を検証

ウクライナがはるかに大きな隣国の領土に突入し、部分的とはいえロシアに形成逆転するなどということは、ほとんどの専門家が予期していないことだった。この衝撃的な作戦は、ロシアの監視能力や国境の要塞の防衛力、そして国境警備あたっている部隊について疑問を投げかけている。越境攻撃の最初の2日間がどのように展開したかを詳しく検証する。

ウクライナのロシア本土への奇襲越境攻撃により、数万人のロシア人が避難を余儀なくされた一方、国境の安全保障に対する疑問を招くとともに2年半に及ぶ戦争の行方さえも変える可能性が浮上している。

ロイターは公式声明やSNSへの投稿、映像分析に基づき、越境攻撃はどのように起こったのか、その最初の2日間を時系列にまとめた。

<8月6日>

8月6日、ウクライナ軍がロシア西部国境を突破する数時間前、モスクワで特異な動きは見られなかった。

同日公開されたロシア国防省の映像には、ゲラシモフ参謀総長がウクライナの戦闘地域を訪問する様子が映っている。ゲラシモフ氏は、ウクライナでの軍事作戦を指揮している。

映像では訪問の正確な時期は明らかにされていないが、ロシア西部のクルスク地方で起こっている出来事に対する懸念の兆候は見られない。

一方ウクライナ側は、ロシアの町スジャ付近の国境地点で奇襲攻撃を開始した際のものだとする映像を公開。軍用車両が押し寄せた。

これらはいわゆる「竜の歯」で、ロシアのメディアによれば約1億7000万ドル(約248億円)をかけてクルスクを国境の要塞と化すための設備の一部だ。

だがウクライナ軍特殊部隊の関連組織が昨年SNS上に掲載した投稿によると、要塞のほぼすべてが放棄されていたという。この投稿は、汚職がその要因だと指摘していた。

ロシアの国境防衛は、正規軍のほかロシア連邦保安庁(FSB)の国境警備隊、国家親衛隊が担っている。

ロシアの防衛体制について詳しい米国の専門家は、次のように指摘する。

軍事専門家 ブレイディ・アフリックさん

「クルスク地方の要塞は、ロシア占領下のウクライナ南部に比べて、車両用溝や障害物、戦闘陣地が少ない傾向にあった。人員が少なかったり訓練不足の人員が配置されていた場合、この地域の要塞の突破はウクライナ軍にとって比較的容易だった可能性が高い」

ロシアではパニックが広がっている。

ロイターが入手した映像には、スジャ付近の上空を軍用機が飛行する様子が映っている。市街地では、市民が建物の被害を撮影した。

アレクセイ・スミルノフ氏はクルスク地方の知事代行であり、その職に就いてまだ数カ月しか経っていない。スミルノフ氏はミサイル警報を発出し、SNS上で人々に避難するよう呼びかけた。投稿者の1人が「スジャの『シェルター』はどこにあるのか?」と質問している。

ロイターは、SNSを通じて現地住民に何度も連絡を取ろうとしたが、無視されるかブロックされた。

越境攻撃の初日、ロシアのプーチン大統領は沈黙を守った。

<8月7日>

クルスクでの出来事について公に発言したのは、翌7日だった。プーチン氏は、この出来事についてウクライナの「大規模な挑発行為」だとした。

ゲラシモフ参謀総長は、ロシア軍が最大1000人のウクライナ部隊を「阻止した」と述べた。ある専門家は、ゲラシモフ氏がテレビカメラのいる手前、プーチン氏に良い知らせを伝えるよう圧力を感じていた可能性や、あるいは彼自身、誤った情報を伝えられていた可能性もあると指摘する。

またクルスクのスミルノフ知事代行は、ロシア軍とFSB国境警備隊が国境侵入を阻止したとの誤った情報を発出した。これらの発言は、現地の出来事によって直ちに誤りであることが明らかになった。

ウクライナは攻撃計画について多くを明かしていない。

ロシア国防省はコメント要請に応じなかった。ウクライナ軍は進行中の作戦についてコメントを控えた。

ウクライナ政府は越境攻撃について、緩衝地帯を確保し、ロシアの軍事力を弱めることが目的だと説明している。

ゼレンスキー大統領は10日、クルスクでの戦闘を初めて認め、侵略者に対する「必要な」圧力の確保が狙いだと説明した。

ウクライナ当局は、約1300平方キロにある90以上の集落を支配下に置いたと発表した。

他の戦闘地域では守勢に立たされているウクライナ軍だが、クルスクではリスクの高い賭けに挑んでいる。