ロシア軍を苦しめるプリゴジンの亡霊、戦死者と火砲損失急増の理由

AI要約

ロシア軍とウクライナ軍の地上戦において、ロシア軍の進出と作戦、ウクライナ軍の撃退、および双方の損失数が注目されている。

ロシア軍は10か月間にわたり歩兵の肉弾戦を行い、多大な損失を出しているが、一定の戦果を上げている。特に無謀な攻撃により損失が増加している。

プリゴジン軍の攻撃は悲惨な結果をもたらしたが、一定の成功を収めており、ロシア軍はアウディウカでの攻勢を行っている。しかし、損失は増加の一途をたどっている。

 最近のウクライナ地上軍とロシア地上軍の地上戦を見ていると、注目が集まっているのは、ロシア軍の進出、防御するウクライナ軍の撃退、その結果による、両軍の損失数についてだ。

 今、ロシア軍はどのような戦い方をしているのか、それは合理的な戦いなのか、兵士の命を犠牲にして何が得られているのかなどの分析は少ない。

 そこでここでは、ロシア軍損失の推移と作戦とを重ね合わせて考察する。

■ 1.ロシア軍のこの10か月の戦い

 ロシアは昨年(2023年)10月頃からアウディウカ方面などで攻勢を強め、今年(2024年)8月までに、4か所の地域で戦いを優勢に進め、戦線を前方に押し出している。

 米国戦争研究所「Critical Threats」によれば、その戦果が出ているのは、下図の赤丸の地域であり、どれほど進展したかは、図に示している範囲である。

 図 ロシア地上軍の進出線の変化(2023年10月5日と2024年8月5日頃)

 ロシアは、約10か月の期間にこれだけの戦果を出すために、「歩兵の肉弾戦」と呼ばれるほどの犠牲を厭わない攻撃を行い、多くの損失を出している。

 今回は、両軍の地上での戦いとロシアの兵員、火砲の損失推移の関係、特に無謀な攻撃がどれほどの多くの損失を出しているのかを見る。

 また、火砲の損失が今後、歩兵の損失にどれほどの影響が出るのか、そして最後にロシアの今後の戦力の許容範囲(限界)を予測したい。

■ 2.ロシア軍の戦い方と兵員損失数の変化

 ロシアは当初、ウクライナの首都キーウを含めた各正面で同時侵攻を行った。

 侵攻当初、空挺・ヘリボーン作戦が失敗し、キーウ正面の兵站上に大きな問題が生じ、キーウからの後退を余儀なくされた。

 その時の1か月の損失は約1.5万人であった。その後ロシアは、戦線を縮小し、再び攻勢に出た時の各月の損失は約5000人だ。

 戦線を縮小しても、ロシアはドニプロ川まで進み、東岸までを占拠しようという構想だったように思われる。

 ところが、その構想に反してロシアの作戦はハルキウやへルソンで失敗し、後退することになった。その時から、徐々に損失が増加した。

 グラフ ロシア軍兵員の月間損失数の推移と作戦との関係

 2023年1月頃から、エフゲニー・プリゴジン氏率いる軍によるバフムトでの損失を顧みない攻撃で、約2万人の損失を出した。

 この時の攻撃があまりにも悲惨であったことから、「肉挽き攻撃」とも呼ばれた。

 とはいえ、プリゴジン軍の攻撃は、接触線を前に進めたという一定の成功を得た。ロシアはその部分的な成功体験を参考にする要領で、アウディウカでの攻勢を実施している。

 この攻撃は今も続けており、戦線を前に推し進めている成果は出ている。だが、1か月あたりの損失は、3万人を超えた。

 この攻撃と併せて、ハルキウからの侵攻を開始した。

 侵攻1か月後に戦線を縮小したものを、今の時期になって、再び戦線を拡張したのだ。この時期の損失は、1か月あたり3.5万人に増加した。

 ロシアは、侵攻1か月後、戦理に叶う、より効果的な戦いをするために戦線を縮小したはずであった。

 戦線を縮小した時の各月当たりの損失5000人から、2万人、3万人、3.5万人と、今では、約7倍に増加しているのである。

 なぜ、このような損失がでるようになったのか。

 プリゴジン軍の戦った小さな戦果に引き込まれ、戦術がない、兵士の命を犠牲にした無謀な攻撃を行っているからだ。