中国製EV追加関税でEUが示した「本気度」とドイツ自動車業界の「不安」

AI要約

欧州委員会は中国製EVに追加関税を導入し、中国との交渉の勝利を手にする。一方、ドイツの自動車業界は批判を強めている。

関税は暫定的で11月に導入される見込みだが、消費者への影響は限定的とされる。

EU域内での中国製EVの比率はまだ低いが、今後の増加に警戒するEUの姿勢が明らかになっている。

中国製EV追加関税でEUが示した「本気度」とドイツ自動車業界の「不安」

 欧州委員会は中国製EVへの追加関税の暫定的適用を発表することで、中国を交渉のテーブルに引き出すという最初の「勝利」を手にした。だが中国に深く依存するドイツの自動車業界は、関税上乗せを強く批判。業界の頭上に貿易紛争の暗雲が垂れ込める。

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 欧州委員会は7月4日、中国から輸入される電気自動車(EV)に対し、最高37.6%の追加関税を暫定的に導入すると発表した。「暫定的」と呼ばれるのは、実際に関税が徴収されるのが今年の11月以降だからだ。しかし輸入会社は関税額をリザーブ(保全)することを求められる。今後欧州委員会と中国政府は、約4カ月の交渉に入る。交渉が実を結ばない場合には、追加関税が正式に発動される。

 キール世界経済研究所(IfW)とオーストリア経済研究所(WIFO)は、「シミュレーションの結果、追加関税が欧州の消費者に与える悪影響は軽微と予想される」という見方を同日発表した。両研究所は、「EU(欧州連合)の追加関税が正式に適用された場合、中国からのEV輸入量は現在に比べて42%減る。だが中国車の減少分は、EU域内の自動車メーカーの販売数の増加や中国以外の国からの輸入量の増加によって相殺される。このためEU域内のEV価格は、0.3~0.9%しか上昇しない」と予測している。IfWによると、2023年に中国からEU域内に輸入されたEVの台数は約50万台だった。

 IfWは今年5月に発表した別のシミュレーションの中で、EUが中国のEVに対する関税を平均20%引き上げた場合、中国のEU向けEV輸出額は約40億ドル(6400億円・1ドル=160円換算)減る」と推測していた。

 欧州の論壇では、「EVをめぐる一連の動きは、EUの作戦通りに進んでいる」という見方が強い。今年6月12日に欧州委員会が「調査の結果、中国のEVメーカーが天然資源の採掘から製造、輸送に至るまで、政府による不当な補助金を受けていることがわかった。このため中国製EVは、欧州製EVに比べて平均20%安い」と指摘し、追加関税をかける方針を明らかにした。

 もっとも、EU域内での中国製EVの数はまだ少ない。欧州委員会によると、2023年にEU域内で販売されたEVの内、中国製EVの比率は7.9%にすぎなかった。ドイツ連邦自動車局によると、ドイツで2023年に新車として登録されたEVの内、BYDなど中国製EVの比率は5.5%に留まった。筆者が住むミュンヘンで、中国製のEVはめったに見かけない。しかし欧州委員会は、EUでの中国製EVの比率が2025年には15%に増加すると警戒している。

 EUの「宣戦布告」から10日後の6月22日に、ドイツ連邦経済気候保護省(BMWK)のロベルト・ハーベック大臣が訪問先の北京で、「我々は中国を罰しようとしているのではない。制裁関税は『究極的な対抗手段』であり、しばしば最悪の選択だ。今後EUと中国が関税引き上げ競争に陥った場合には、双方が敗者になる。今重要なことは、欧州委員会と中国政府が話し合いによって事態を解決することだ」と述べた。中国側は欧州委員会の発表に対し、EUが予想したほど強く反発せず、ハーベック大臣に対して欧州委員会との交渉に応じると伝えた。ハーベック大臣の比較的穏健なメッセージが、中国側の姿勢を軟化させたのかもしれない。