EV覇権の地政学! 背後にチラつく中国の巧みな「欧米分断戦略」とは

AI要約

バイデン政権とEUが中国製電気自動車に対する追加関税発表し、中国は反発。

関税は暫定的で中国との交渉が続くが、EU内でも反対意見がある。

中国は米国との貿易摩擦に備え、貿易摩擦を最小化する姿勢を示す可能性。

EV覇権の地政学! 背後にチラつく中国の巧みな「欧米分断戦略」とは

 バイデン政権が中国製の電気自動車(EV)に対する関税を現行の25%から100%に引き上げることを発表したなか、欧州連合(EU)も7月、中国製EVに対する追加関税の適用を開始した。

 既存の関税率は10%であるが、最大37.6%(当初は38.1%だったが、その後の交渉で0.5%引き下げられた)の関税が上乗せされる。上乗せ率は自動車メーカーによって異なり、

「欧州委員会の調査協力に前向きだったメーカー」

ほど率は小さく、現在のところ、

・吉利汽車:19.9%

・比亜迪(BYD):17.4%

・上海汽車:37.6%

などとなっている。これに対して中国は強く反発しており、対抗措置も辞さない構えを示しているが、今後EV覇権をめぐる中国とEUの関係はどうなっていくのか。ここでは地政学的な観点からその行方を探ってみたい。

 まず、今回の追加関税の適用は暫定的なものだ。11月に最終決定が行われる予定で、それまでは中国政府との交渉が続けられるが、EU内では反対の声も少なくない。

 EUは中国政府が不当な補助金で安価なEVを大量生産し、それによってEU内の自動車メーカーが経済的損害を被ると警戒しているが、メルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲンなどのドイツの大手自動車メーカーは多くの自動車を中国で販売している。

 今回の追加関税阻止で中国からの報復を招き、中国への輸出が困難になると反対の姿勢を示している。

 また、EVに限らず、欧州には中国と強固な経済関係を維持している国も多く、EUと中国との経済、貿易上の緊張が激しくなることで、他の業界や業種にも影響が拡大することが懸念されている。

 では、今後中国はどういった対応をしていくのだろうか。

 まず、中国は米国との貿易摩擦が長期的に続く、もしくはもっと激化するとの前提に立って物事を捉えているといえよう。秋の大統領選でホワイトハウスへの返り咲きを目指すトランプ氏は、在任中の2018年から4回にわたって計3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す措置を実行した。

 第2次トランプ政権になれば中国製品に対して

「一律60%」

の関税を課すと主張し、バイデン大統領も冒頭の対中関税100%を含み、

・太陽電池

・車載用電池

・鉄鋼

・アルミニウム

・非先端半導体

など2兆8000億円相当の中国製品に対する関税を引き上げると発表しており、秋の大統領選の行方に関わらず、米国の中国への先制的な貿易規制措置が仕掛けられる可能性が極めて高い。

 中国はこの前提のもと、他国との間では可能な限り

「貿易摩擦を最小化する姿勢」

を重視すると考えられる。無論、貿易相手国との間で政治的摩擦が拡大すれば、台湾産の農産物、オーストラリア産のワインや牛肉などの輸入を停止したような経済的威圧を仕掛けていくだろうが、今回のEUによる追加関税措置に対しても、より自制的な貿易規制で対応することが現実的といえる。