高級車「フェラーリ」は“静かな”EVに移行しても、その魅力を保てるのか?

AI要約

フェラーリがEV市場に参入する中、高級スポーツカーメーカーは新工場でEV製造を開始し、高額投資を行っている。

自動車業界ではEVへの移行が進む中、フェラーリは熱狂的なファン層を維持しながら新たな顧客層を開拓しようとしている。

フェラーリは2026年までに本格的なEV生産を開始し、2030年までにEVとハイブリッド車が生産の大半を占める予定だ。

高級車「フェラーリ」は“静かな”EVに移行しても、その魅力を保てるのか?

欧米でEV市場が停滞している。そんななか、高級スポーツカーメーカーのフェラーリは、2025年に初めてのEVを売り出す予定だ。しかし、熱狂的なファンが多い同社は、EVという全く異なるシステムに移行しても、その魅力を保てるのか。EVに大規模投資をするフェラーリのいまについて、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が考察した。

北イタリアの新工場では、フェラーリ車のフレームがロボット搬送装置によってなめらかに運ばれていく。ステーションごとに、チェリーレッドのユニフォームに身を包んだエンジニアたちがフレームにエンジンブロック、ダッシュボード、ステアリングホイールといった部品を付け加えていった。そうしてハイブリッド車が組み立てられた。

そして、同社が次に作ろうとしているのは、電気自動車(EV)だ。

フェラーリは2億ユーロ(約340億円)をかけ、ローマのコロッセオの約2倍の広さを持つ新工場「eビルディング」を完成させた。EVを製造する同工場は、2024年6月、ついに稼働を開始した。77年の歴史を持つ同社のスポーツカーは、甲高く澄んだエンジン音で知られる。

しかし、自動車業界の状況はいま、不安定だ。かつてはEVへの移行によって、気候変動に配慮した乗り物の時代が一気に到来するとされていた。しかし、非常に高額な投資が求められるのにかかわらず、世界的にEV需要が鈍化しているために、事業は圧迫されている。

他の高級車メーカーもEVへの移行に際して苦戦している。メルセデス・ベンツとランボルギーニは、掲げていた目標を縮小した。テスラは7月初め、第2四半期の売上高が減少したと明らかにしている。フォード・モーターは4月、損失が続くEV事業から、生産の一部をハイブリッド車にシフトすると発表した。

EV市場の成長は、中国と欧米諸国との貿易戦争の激化によっても阻害される恐れがある。

しかし、フェラーリは、EVへの転換という避けられない流れのなかで、裕福かつ、環境保護に熱心という新たな顧客層を獲得しようと躍起だ。その戦略の一環として、車の外観を洗練させるために、デザイン会社の「ラブフロム」(LoveFrom)から協力を得ている。同社はアップルの元デザイン責任者であるジョニー・アイブと、工業デザイナーのマーク・ニューソンによって設立された。

フェラーリは、2024年第4四半期に初の完全電動のEVモデルを発表する予定だ。しかし、それにはまだ謎が多い。バッテリー駆動時間やサウンドだけでなく、名前やその外観、生産台数、価格も明らかにされていないのだ。しかし、アナリストらは、市場で最も高価なEVになる可能性があると指摘する。その価格は、ポルシェのEVスポーツカー「タイカン ターボ GT」の28万6000ドル(約4460万円)を上回ると想定されている。

フェラーリによるEV投入が注目される理由は他にもある。規制当局がEVを推進する一方、市場には懐疑的な見方がある現在、EVから大きな利益を出せると実証できる自動車メーカーが業界では切望されているのだ。フェラーリにとっても、ガソリン車のファンをEVに移行させるのは容易ではない。

「フェラーリがEVでも、その価格プレミアムを保てるか注目しています。フェラーリ車の購入は一種の投資とみなされてきました。しかし、そのEVが投資対象となりうるかは、数年後にしかわからないのです」。そう言うのは、ミラノの投資銀行エクイタの自動車アナリスト、マルティーノ・デ・アンブロッジだ。

フェラーリCEOのベネデット・ヴィーニャは6月、新工場でのインタビューで、次のように述べた。「2026年初頭までに本格的なEV生産を開始します。2030年までに、年間生産台数の80%がEVとハイブリッドカーになるでしょう」

その間、eビルディングではプラグイン・ハイブリッド車の「SF90ストラダーレ」と、ガソリン車「プロサングエ」という2モデルが製造される。

フェラーリがEVを推進するのは、収益を増やすためではない。現在、フェラーリの業績は絶好調で、株価も高く、その時価は約750億ドルと、フォードやゼネラル・モーターズを上回る。

フェラーリが作るのは世界で最も高価な車だが、価格とともに利益も急騰している。入手に3年待たなくてはいけないモデルもある。

F1のスポンサーとして長年成功を重ねたことで、フェラーリはスポーティな高級ブランドとなった。その関連商品ビジネスも拡大し、フェラーリの跳ね馬のエンブレムは高級衣料品にもあしらわれている。790ユーロ(約13万円)のカシミアのセーターなどだ。