米国の膨大な情報収集手法「外国人は問答無用」 日本には戦前の苦い記憶、憲法との整合性も【ワシントン報告⑱日本の能動的サイバー防御】

AI要約

米国の情報収集法についての延長とその背景

日本における能動的サイバー防御の議論と課題

米国と日本の情報収集の違いと日本の法整備への取り組み

米国の膨大な情報収集手法「外国人は問答無用」 日本には戦前の苦い記憶、憲法との整合性も【ワシントン報告⑱日本の能動的サイバー防御】

 日本で能動的サイバー防御の議論が本格化した。憲法が保障する通信の秘密との整合性やサイバー攻撃を先回りして抑え込む法的根拠など課題は多い。前提として膨大な情報収集が欠かせない。世界をリードする米国は、その良しあしを別にして外国人の情報収集は事実上、問答無用と割り切る。日本にとって未体験の領域だ。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕)

 ▽令状不要

 米議会は4月、国内外の情報収集を定めた外国情報収集法(FISA)702条の2年延長を決めた。昨年末に期限が切れた後、暫定法案でつなぎ、ようやく合意した。賛否が割れ、交渉は難航した。安全保障担当のサリバン大統領補佐官は「米国の最も大切な情報収集の手段の一つが守られたことを称賛したい」と評価した。

 FISAはニクソン政権による野放図な情報収集の反省から生まれ、通信履歴などの収集には原則として裁判所の令状を求めた。その後、米中枢同時テロが起きると、ブッシュ政権は令状のないままテロ関連の盗聴を秘密裏に進めた。これが表面化して批判を浴び、702条ができた。海外に居住する外国人なら令状なく通話や電子メールの情報を収集できると規定する。

 国家の安全保障に関わる場合というのが前提だが、定義は明確でない。専門の裁判所による承認はいるが「通常の令状と比べて基準はかなり低い」(米シンクタンク)。

 議会での交渉が難航したのは、外国人の人権侵害を懸念したわけではなく、米国人に対する情報収集の恐れにある。捜査対象は外国人となっているが、通話した相手が米国人ならば、その記録も情報機関は把握できる。

 ▽胸なで下ろす政府関係者

 能動的サイバー防御は2022年の安保三文書に盛り込まれたが、憲法だけでなく自衛隊法や不正アクセス禁止法などを含む大がかりな法改正が必要になる。今年6月になって有識者会合がようやく始まった。米国は日本の対応が遅いといらだっており、日本政府関係者は「新たな連携がやっと緒に就いた」と胸をなで下ろした。

 702条に基づき米国家安全保障局(NSA)はIT大手グーグルやフェイスブック、通信大手AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズなどから電子メールや通話記録の情報を大量に吸い上げている。世界をまたぐ巨大企業を国内に抱えている点が米政府の強みだ。憲法には通信の秘密を明示的に禁じた条文はないが、不当な捜索や逮捕を禁じた修正4条との関わりが問題になる。人権団体の全米市民自由連合(ACLU)は702条を「修正4条への裏切り」と反発するが、世論への広がりは欠く。