米国の核の傘、尹大統領が望んだ「作戦計画」ではなく「共同指針」となったわけ

AI要約

尹錫悦大統領が米国を訪問し、拡大抑止に関する韓米共同指針が採択されたことが報じられた。

拡大抑止は朝鮮半島の有事において、米国の核兵器や通常兵器、ミサイル防衛能力を韓国に提供する安全保障策であり、「核の傘」がその中心となる。

韓米連合司令部の作戦計画に拡大抑止を反映させる際、米国の核戦略との調整が課題として浮上している。

米国の核の傘、尹大統領が望んだ「作戦計画」ではなく「共同指針」となったわけ

 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため米国を訪問した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今月9日(現地時間)、米国ハワイのインド太平洋軍司令部に立ち寄った。前日の8日、大統領室の高官はハワイで記者団に対し、尹大統領のインド太平洋軍司令部訪問と米国の拡大抑止について問われ、次のように答えている。

 「韓米間の拡大抑止には現在、国防部当局間の草案が完成段階にあるため、それを韓米の高官レベルで承認、追認する手続きが必要でしょうし、また、それを実際に韓米両国間の訓練、そして作戦計画へと反映する手続きが必要ですので、今回、インド太平洋軍司令部が韓米の拡大抑止を実際に具体的なアクションプランの観点から説明するには早い感がありますが…」

 尹錫悦大統領と米国のバイデン大統領は11日午前(現地時間)に韓米首脳会談を行い、「朝鮮半島核抑止・核作戦指針に関する韓米共同声明」を採択した。大統領室は、これによって「韓米共同の一体型拡大抑止システムが構築された」と述べた。

 拡大抑止とは、朝鮮半島が有事の際、米国は核兵器、先端通常兵器、ミサイル防衛能力を提供して韓国の安全を保障するというものだが、「核の傘」が要となっている。核の傘は、核兵器のない韓国が北朝鮮の核攻撃を受けた際に、米国が核兵器で北朝鮮に報復するということを意味する。韓国と米国は先月10日、核協議グループ(NCG)の会議を行い、北朝鮮が核攻撃を加えてきた場合は韓国の通常戦力と米国の核戦力を統合運用して対応するとの内容が盛り込まれた「共同指針」を作成した。共同指針は、北朝鮮の核に対応して韓国の通常戦力と米国の核戦力を統合した「一体型拡大抑止」協力をどのように行うのかについて、原則と手続きを記したガイドラインだ。11日の韓米首脳会談で、両国首脳はこの共同指針を承認した。

 8日の大統領室高官の発言にもあるように、尹錫悦政権は拡大抑止を韓米作戦計画(作戦計画)に反映することを望んでいる。しかし米国は、作戦計画への反映には否定的な態度だという。拡大抑止の核の傘を作戦計画に反映するためには、それを韓米連合司令部の作戦計画に入れなければならないが、そうした場合、米国の核戦略、軍の指揮システムと衝突する。

 米軍には全部で11の司令部がある。6つの地域ごとの統合戦闘司令部(北部、南部、インド太平洋、欧州、中部、アフリカ)と5つの機能司令部(戦略、サイバー、特殊作戦、輸送、宇宙)だ。尹錫悦大統領が訪問したインド太平洋軍司令部は、米国の西海岸からインドの西部国境まで、南極から北極までを管轄する統合戦闘司令部だ。「統合」とは、インド太平洋軍司令部の傘下に太平洋海兵隊司令部、太平洋艦隊司令部、太平洋陸軍司令部、太平洋空軍司令部、太平洋宇宙軍司令部があり、陸、海、空、海兵、宇宙の各軍種が共同で作戦を展開することを意味するものだ。

 米国は戦略司令部が核兵器を管理する。核兵器は通常兵器と根本的に異なると考えて、既存の作戦組織と区別して戦略司令部に別途の任務を与え、指揮システムを設定したのだ。米国が戦略司令部に核の運用、核の指揮統制任務を与えたのは、核兵器はインド太平洋軍司令部のような地域統合戦闘司令部レベルで扱う軍事目的の兵器ではなく、米国大統領が統帥権の観点から運用するものだからだ。米国は、核兵器使用に対する独占的かつ排他的で最終的な権限は米国大統領のみが持つという「単一権限(Sole Authority)」原則を一貫して堅持している。そのため、核兵器は「将軍の兵器ではなく政治家の兵器」だという言葉が生まれた。

 尹錫悦政権の望み通りに拡大抑止を作戦計画に反映するには、韓米連合司令部の作戦計画に反映しなければならない。現在の韓米連合司令部の作戦計画に、核の傘に関する内容はない。作戦計画5027、5015など、韓米連合司令部の作戦計画は、すべて米国のインド太平洋軍司令部の管轄区域であることを意味する「5000」番台の番号が振られている。現在、韓国に適用される作戦計画は、インド太平洋軍司令部が主導し立案したものだ。作戦計画は特定の状況に備えて軍がどのように作戦を展開していくのかを定めた計画で、具体的な動員部隊、兵器システム、人員、進行ルート、時間ごとの進行状況などが詳細に記されている。

 米国の立場からすると、核兵器は米国大統領の固有の権限であり、戦略司令部の作戦計画で管理しているため、韓米連合司令部(米インド太平洋軍司令部)の作戦計画に反映することはできない。韓国軍への戦時作戦統制権返還後は韓米連合司令部が解体され、未来連合司令部が新たにできるが、司令官は韓国軍の大将が、副司令官は米軍大将が務めることになるということも変数だ。韓米連合司令部の作戦計画に拡大抑止を加えると、今後、韓米連合司令部に代わって未来連合司令部が登場すれば、司令官である韓国軍大将が米国の核兵器運用を指揮する状況も生じうる。米国がこれを受け入れることは困難だ。韓国と米国が先月10日のソウルの国防部庁舎での第3回核協議グループ(NCG)会議後に、韓国の通常戦力と米国の核戦力を統合して北朝鮮の核攻撃に対応するガイドラインを「共同指針」という乾燥した用語で発表した背景には、拡大抑止の作戦計画化に対する両国の立場の違いがあるということだ。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )