「史上最強の同盟」描けぬ展望 米大統領選が影落とす NATO首脳会議閉幕〔深層探訪〕

AI要約

北大西洋条約機構(NATO)は、史上最強の軍事同盟として自負し、ウクライナ侵攻を背景に32カ国に拡大し、国防支出の増加も図っている。

NATOはロシアを最大の脅威と位置づけ、中国や北朝鮮、イランとの連携を強化する中、インド太平洋の民主主義国との協力も進めている。

しかし、バイデン米大統領の健康が懸念され、トランプ前大統領の返り咲きが現実味を帯びる中、NATOの将来は不透明な状況にある。

「史上最強の同盟」描けぬ展望 米大統領選が影落とす NATO首脳会議閉幕〔深層探訪〕

 北大西洋条約機構(NATO)は11日閉幕した首脳会議で、「史上最強の軍事同盟」を誇示した。ロシアによるウクライナ侵攻を背景に加盟国は32カ国に拡大し、各国の国防支出も大幅に増加。だが、11月の米大統領選でトランプ前大統領の返り咲きが現実味を帯びる中、今後も史上最強であり続けられるか、展望を描けずにいる。

 ◇ウクライナ侵攻で求心力

 「世界史上最大にして、最も効果的な軍事同盟だ」。NATOの盟主を自任するバイデン米大統領は9日、設立75周年の記念式典でこう自賛。冷戦で勝利し、ウクライナ侵攻をきっかけに再び求心力を強める同盟の重要性を訴えた。

 旧ソ連に対抗するために設立されたNATOは冷戦後も加盟国を増やし、今年は長年中立を維持してきたスウェーデンが加わった。2014年に合意した国防支出を対国内総生産(GDP)比2%以上とする目標も、これまでなかなか進まなかったが、今年は23カ国が達成した。

 「最も重大で直接的な脅威」と位置付けるロシアが中国や北朝鮮、イランとの関係を深める中、日本を含むインド太平洋の民主主義国との連携強化も進めている。スウェーデンのクリステション首相は「欧州もインド太平洋に関与しなければならない」と述べ、米欧にとどまらない安全保障協力に意欲を示す。

 ◇注目はバイデン氏の健康

 だが、首脳会議で最も注目を集めたのは、バイデン氏の健康状態だった。81歳のバイデン氏は6月のテレビ討論会で衰えを露呈。身内の民主党内からも選挙戦撤退を促す声が高まっている。

 バイデン氏の「弱体化」は、大統領選でトランプ氏が勝利する可能性が高まることを意味する。トランプ氏は同盟軽視の傾向が強く、国防支出が少ない加盟国への攻撃をロシアに促すような発言をして欧州を動揺させたばかりだ。

 バイデン氏は会議閉幕後の記者会見で、トランプ政権が再来すれば「大惨事になる」と欧州の首脳から告げられ、激励されたと明かした。バイデン氏がウクライナのゼレンスキー大統領を「プーチン(ロシア)大統領」と言い間違う失態を犯すと、フランスのマクロン大統領らはそろって「言い間違いは誰にでもある」などとかばった。

 ◇「トランプ詣で」

 その一方、欧州の同盟国はトランプ氏の復活に備えて動きだしている。ロシアに融和的なハンガリーのオルバン首相は、首脳会議終了直後に米フロリダ州へ飛び、トランプ氏と会談した。オルバン氏は「反移民」を掲げるなど、政策面でもトランプ氏に近い。

 米政治専門紙ポリティコによると、トランプ氏が当選した場合の国務長官候補に挙がるグレネル元駐ドイツ米大使は、欧州の首脳・高官らとの食事会で引っ張りだこ。トランプ氏周辺との接触を模索する同盟国は後を絶たず、「非公式の首脳会議」とやゆされた。

 ゼレンスキー氏は演説で「今、誰もが11月を待っている。米国、欧州、中東、インド太平洋、そしてプーチンもだ」と指摘。NATOの将来は、4カ月足らずに迫った選挙の結果に大きく左右される。(ワシントン時事)