なぜ世界中でメディアが危機に瀕しているのか─日本も無関係ではない実情

AI要約

世界中でメディアへの脅威が高まっており、記者が拘束や暴力を受ける事例が増加している。

2001年の米中枢同時テロ以降、国家安全保障政策の名のもとに報道の自由が制限されており、各国のメディアが逆風にさらされている。

日本も特定秘密保護法の施行や政府による報道への介入が問題となっており、メディアが積極的に抗議する姿勢が求められている。

なぜ世界中でメディアが危機に瀕しているのか─日本も無関係ではない実情

近年、世界中でメディアへの脅威が高まっている。

パレスチナ自治区ガザやロシア、中国などでは記者が不当に拘束され、暴力を受ける事例が相次ぐ。権力の不正を暴こうとする記者をインターネット上で組織的に中傷する問題も起きている。

東京新聞と中日新聞の海外特派員らによって書かれた『報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち』(ちくま新書)は、政治思想・派閥による分断や、ポピュリスト政治家の台頭、SNSやデジタルプラットフォームの普及といったメディアを巡る諸問題を切り口に、各国の報道機関が直面する危機と、それに果敢に立ち向かおうとするジャーナリストたちの姿に迫っている。

ではなぜ、いまメディアに逆風が吹いているのか。本書において、豪メルボルン大学でジャーナリズムを研究するデニス・ムラー上級研究員(取材当時)は、メディアを統制しようとする動きが世界中で加速する背景には、2001年9月11日の米中枢同時テロがあると分析している。

この事件以降、国家安全保障政策の名のもとに、メディアが機密情報へアクセスする権利や市民の知る権利を制限する動きが強まった。ムラーは自国オーストラリアの報道の自由も「脆弱な水準」にあり、9.11後の20年間に制定された国家安全保障関係の法律は、「報道の自由を妨げるために多くのことができる」と危機感をあらわにしている。

こうした問題は、決して他人事ではない。

日本でも2014年に、国の安全保障に関連し、秘匿性が高いと判断された情報を行政機関の長が特定秘密に指定する「特定秘密保護法」が施行され、行政情報を得ようとする記者などが罪に問われる可能性が出てきた。また、安倍晋三政権下では、政府による報道への介入と思える事例が相次いだが、メディアにも市民にもこれに積極的に抗議しようとする姿勢はあまり見られなかった。

放送の自由を研究する成城大学法学部の西土彰一郎教授は、「メディアがこうした問題に深入りを避けていたら、報道の自由は揺らいでいく」と、本書で日本の現状に警鐘を鳴らしている。

各国の報道機関や記者が権力にどのように対峙しているのかを知るために、『報道弾圧』を読むことは有意義だ。2017年9月から3年間、東京新聞・中日新聞バンコク支局特派員(19年8月から支局長)を務め、本書の共著者でもある北川成史記者に、各国の状況や日本の抱える問題などについて聞いた。