「ドアをぶった切るぞ」...ロシア当局の強引な家宅捜査で、反戦派ジャーナリストが奪い取られた「かけがえのない宝物」

AI要約

ウクライナ戦争勃発後、ロシア人女性が反戦ポスターを掲げて抗議行動を起こし、それによってロシア当局から追われるようになる。

彼女は政府系メディアでプロパガンダに加担してきたが、ある日それに対して抗議することを決意し、自宅に警察官が押し入ってきた。

自宅に警察が押し入り、彼女は身の危険を感じ、国外脱出を決意する。そこからの詳細な経緯が描かれる。

「ドアをぶった切るぞ」...ロシア当局の強引な家宅捜査で、反戦派ジャーナリストが奪い取られた「かけがえのない宝物」

 「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。

 ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。

 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。

 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第35回

 『すぐ真後ろを尾行「刺すように見つめてくる」...反体制派をつけ回す、当局による「執拗すぎる追跡」』より続く

 自宅の一階では、日の出前の静けさの中で、犬が大声で吠えだした。わたしはベッドから跳び起きた。

 「ベリー、どうしたの?」

 犬は吠え続けた。厚いカーテンを開けて窓の外をのぞいた。青い迷彩服の武装警察官が10人ほど塀のまわりにいた。何人かの私服の警察官が足早に家に近づいた。

 「開けなさい」大声が響いた。そしてドアを叩く音がした。

 鳥肌が立った。強い咳の波が胸を圧迫した。ベリーは吠え続け、ときどき威嚇するようなうなり声に変わった。ドアを叩く音がますます強く、しつこくなった。

 ズボンをはきTシャツを着ると階段を駆け下りた。隣の部屋からは眠たそうなクリスティーナが顔を出した。寝起きの髪はバラバラで額には黒いヘッドバンドを巻いていた。クリスティーナの休暇は終わろうとしていた。3日後にはサマラに帰らなければならなかった。