ダノンデサイル皐月賞除外…横山典はこんなにすごかった【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

AI要約

日本ダービーでのダノンデサイルの敗戦は予想者にとって痛恨だった。皐月賞の除外が原因で多くのファンに買い控えさせたと思われる。しかし、横山典の決断は獣医師目線でも素晴らしいものであった。

皐月賞発走前の歩様診断や除外の決断プロセスが詳細に説明されており、専門家によるリスク判断が行われていることが伝えられている。

ダノンデサイルは除外後に明らかな跛行を見せており、横山典の察知力が勝利に繋がった可能性も考えられる。彼の尊敬の念はダービー勝利でさらに高まった。

ダノンデサイル皐月賞除外…横山典はこんなにすごかった【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

 日本ダービーは予想者としては痛恨だった。ダノンデサイルについては京成杯の道中でボロを放ったことを生理学的な観点から「かなりの化け物に違いない」と書いていながら、直近の調整過程が万全とは言えなかったことで△にとどめてしまった。

 攻め馬の見た目も「悪くはない」という程度だったが、記者も含め、多くのファンに買い控えさせたのは皐月賞の除外だろう。

 横山典は優勝会見で「皐月賞での自分の決断が間違っていなかった」と、胸を張った。職人の腕と誇りに拍手を送るほかないのだが、この決断、獣医師目線でもとてつもなくすごい。

 除外を判断する現場責任者は発走委員だ。ゲート裏には獣医委員が駆けつけ、常歩と速歩で歩様を診断。発走委員に助言し、発走委員が決断する。発走委員の出自は獣医師か馬術選手。歩様診断については事実上、獣医委員と発走委員2人の専門家が協議している。

 皐月賞発走直前のダノンデサイルの歩様はモニターで記者も見たが「言われてみれば右前のような気もするが、跛行(はこう)とは言えない」というのが正直なところ。例えば右前が着地で痛む場合、着地時に頭部が微妙に上がったりするのだが、こうした特徴的な所見は観察できなかった。四肢の着地時間もほぼ均等に見えた。

 とはいえ、学部卒後すぐに文系就職したペーパー獣医師の観察眼である。あれを見抜けるポイントがあるなら知りたい。ダービーの表彰式の外周で、その道の大先輩を見つけ「あの跛行、僕は見て分からなかったんです」と聞いてみた。

 返ってきた答えが想定外だった。「あれは私も見た目では分からないよ。やっぱり乗り手の感覚だよね」。あの時駆けつけた獣医委員(多くは若手)はもちろん、発走委員よりも年期を重ねた重鎮がそう言うのである。少なくとも、横山典が察知し、訴え、獣医委員と発走委員を説得できなければ除外とはなっていなかったであろうことは間違いない。

 安田師によれば、除外後に厩舎地区に戻った段階では「馬運車を下りるのも嫌がるくらい」顕著な跛行を呈していたそうだから、走っていれば無事で済まなかった可能性もある。横山典はそれを事前に察知し、あまつさえ6週後にダービー勝利にまで導いた。学生時代から抱き続けてきた尊敬の念が振り切れるほど増したダービーだった。