「実力としてまだ足りない」藤井聡太“八冠独占”から1年後の王座戦再戦…永瀬拓矢「止まっていた時間を前に」2人の心に芽生える“新局面”

AI要約

藤井聡太王座と永瀬拓矢九段の王座戦五番勝負が始まり、藤井王座が第1局で先勝。藤井は過去に八冠制覇を達成し、永瀬は精神面の問題に向き合いながら挑む。

過去の王座戦での激闘や悔しい敗北を振り返りながら、藤井と永瀬はそれぞれ戦いに臨んでいる。藤井は未だ実力不足を感じつつも、永瀬は精神的な強さを身につけたいと語る。

永瀬は王座戦挑戦権を取り戻し、1年ぶりのタイトル戦に向けて準備を進めている。両者の再戦は注目を集め、将棋界に新たな熱気を与えている。

「実力としてまだ足りない」藤井聡太“八冠独占”から1年後の王座戦再戦…永瀬拓矢「止まっていた時間を前に」2人の心に芽生える“新局面”

 藤井聡太王座(22=竜王・名人・王位・棋王・王将・棋聖を含めて七冠)に永瀬拓矢九段(32)が挑戦している第72期王座戦五番勝負。第1局は9月4日に神奈川県秦野市「元湯陣屋」で行われ、藤井王座が激闘の末に先勝した。その1年前の10月11日には、王座戦第4局で挑戦者の藤井七冠が永瀬王座を3勝1敗で破って王座を奪取し、史上初の「八冠制覇」を21歳2カ月で達成した。あれから1年たった……。

 棋聖と王位の永世称号を取得したが叡王戦で初めて敗退した藤井、王座奪還に向けての永瀬の決意、研究パートナーでもある両者、今後の展望などについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】

 昨年の王座戦第4局の最終盤の局面で永瀬が勝ち筋となり、AI(人工知能)の形勢評価値は《99-1》と圧倒的に勝勢だった。ところが、その直後に永瀬の読みに見落としがあり、敗勢に陥ってしまった。実は第3局の終盤でも勝ち筋を逃していて、永瀬が3勝1敗で王座を防衛という逆の結果もありえた内容だった。

「運も実力」という。

 藤井は何かの見えない力で背中を押されたように、八冠制覇の偉業を達成した。終局後の記者会見では、こう率直に語っている。

「王座戦は苦しい将棋が多かったので、実力としてまだ足りないと感じています。全冠制覇という点では、羽生先生(善治九段)の七冠(1996年に達成)の記録に並びましたが、羽生先生はその後もトップ棋士として活躍しています。自分も今後は息長く活躍したいと思います。まずは実力をもっとつけ、面白い将棋を指すのが一番の目標です」

 一方の永瀬は王座戦での敗退以降について、複数のインタビューで次のように語っていた。

〈昨年の王座戦は、自分としては内容が良かったので悔いが残るシリーズでした。精神的に深いダメージが残ってしまい、しばらく立ち直れませんでした。そんな影響で調子を崩し、勝勢の局面で勝ち切れなかったり、公式戦で何連敗もしました。でも自分の弱さと向き合う機会にもなりました。

 今年2月に朝日杯将棋オープン戦決勝で藤井さんに勝ち、全棋士参加棋戦で初優勝したのはうれしかったです。ただ自分の知っている(強い)藤井さんではなかった……。藤井さんとの練習将棋は、昨年の王座戦が終わってから再開しました。以前は大きく負け越しましたが、最近はほぼ五分の成績です。自分の将棋は、良い状態になっていると思っています。今までは技術面のみを重視してきましたが、精神的な強さも身につけたいです〉

 永瀬は昨年4月に棋聖戦で佐々木大地七段、同8月に竜王戦で伊藤匠六段、今年3月に叡王戦で伊藤七段に、いずれも挑戦者決定戦で敗れて藤井への挑戦権を逃した。精神面で問題があったという。しかし今年7月に王座戦の挑戦者決定戦で羽生九段に勝ち、1年ぶりのタイトル戦に登場した。

 王座奪還への挑戦権を射止めた永瀬は、こう決意を語った。

「結果をやっと出せて良かったです。それが王座戦というのは運命的なものを感じます。藤井さんとの1年ぶりのタイトル戦に、しっかり準備して戦いたい」