選手も観客も、みな等しく、ずぶぬれに…が生んだ一体感「広く開かれた大会に」を体現した開会式

AI要約

パリ五輪開会式はセーヌ川で革新的な演出が行われ、選手と観客の一体感が生まれた。

多様性や若年層を意識した華やかな演出で、「広く開かれた大会に」というスローガンを体現。

競技場外での開会式は五輪の本来の価値を思い起こさせ、笑顔に溢れた光景が広がった。

選手も観客も、みな等しく、ずぶぬれに…が生んだ一体感「広く開かれた大会に」を体現した開会式

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 26日(日本時間27日)にセーヌ川で行われたパリ五輪開会式は、夏季五輪で初めて競技場外で実施された。多様性や若年層を意識した華やかな演出で、「広く開かれた大会に」というスローガンをアピールした。雨降りしきる中での革新的なセレモニーでは選手、観客の一体感が生まれていた。

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 みな等しく、ずぶぬれになった。船上で傘もささずに旗を振り続けていた選手たちだけではない。セーヌ川を約6キロにもわたって“舞台装置”として機能させた演出は、集った観客とオリンピアンたちに、雨に打たれるという共通体験が加わったことで、より一体感を増したように思えた。

 開始前の午後5時にオルセー美術館前の見学エリアに陣取った。小旗を手にしたり、ユニホームを着たりする人々は、「出場する200以上の国・地域を網羅しているのでは」と思うほど多彩だった。東京の無観客開会式の経験者として、うらやましくさえ感じた。

 船での入場が始まってしばらくして降り出した雨は、すぐに本降りとなった。それでも、登場国のアナウンスに合わせて起こる歓声の熱量は落ちない。それぞれに応援する理由があるのだろう。日本選手団が通過した際には、隣のブラジル人男性に「日本はブラジルより多いじゃないか!」と驚かれ、そこから会話が弾んだ。各国で船の形状が異なること、複数の国が一緒の船に乗っていることも、今大会で示したい価値を表しているようだった。

 「広く開かれた大会に」。性的少数者が陽気に踊りまくるダンスなどの演出面でも、このスローガンをこれでもかと実現していたが、個人的に最も驚いたのは、全ての船団が通過した後。五輪旗を運ぶ水上の馬が光り輝いて通過した後、セーヌ川の“役目”は終わったと思っていた。帰路に就く人も出始める中で、聖火の運び人が現れた。

 カール・ルイスさん、ナディア・コマネチさん、セリーナ・ウィリアムズさん、ラファエル・ナダルさん。国も競技も違うレジェンドたちが1つの船で聖火を共有し、今度はセーヌ川をさかのぼってきた。聖火リレーは開催国に根差した人選、と思い込んでいた記者にとっては、この演出も「広く開かれた」を体現するものとして強烈なインパクトがあった。

 ある日本の五輪出場者に聞いた話がある。開催地へ向かう飛行機の隣席が、明らかに他競技の他国の選手だった。自然と会話が弾む。「選手村でまた会おうね」。そう言って、人生で無二の友人に出会える場。それが五輪だという。この日、チケットの有無にかかわらずセーヌ川に集合した人々の誰かにも起こった出来事かもしれない。隣にいた誰かと1つの会話が、そこでしかない出会いを生む。

 東京で分断されたのは選手と観客でもあった。史上初の競技場外での開会式は、3年前の不運を一気に反転させ、五輪の本来の価値を思い起こさせたように感じた。「コンペティション」ではなく「ゲームス」。日本語では祭典と訳されるが、単なる競技会ではない価値がそこに宿る。気球型の聖火台が空へと舞い上がる姿を見終えた人々の雨でぬれた顔には、とびきりの笑顔が咲いていた。【阿部健吾】