かかりつけ医、なぜ必要か~日本の医療の問題点と改善策~

AI要約

日本の医療体制における問題点と改善策について述べた内容。主治医不在時の対応難、クリニックと病院の役割のすみ分けの必要性などが示唆されている。

高齢者の医療ニーズに関する具体例を通じて、現行の逆三角形型医療体制の問題点を指摘。総合診療クリニックの不足や病院への過度な依存が危険とされている。

地域医療を守りつつ、総合診療かかりつけ医の重要性を強調する。クリニックと病院の役割をしっかり分担させることで効率的かつ安全な医療提供が可能になる構想。

かかりつけ医、なぜ必要か~日本の医療の問題点と改善策~

 日本の医療の問題点とその改善策や、総合診療かかりつけ医がどのように必要になるのかをお話しします。

 先日、ある方が私のクリニックを受診されました。70代の女性です。普段は糖尿病で大学病院に2カ月に1度通院し、採血・採尿の後、薬が処方されます。また高血圧なので家の近くのクリニックに1カ月に1度、薬をもらいに行っています。

 ある日曜日に動悸(どうき)がして体調が悪くなり、通院している大学病院に電話したところ「主治医がいないから診られない」と断られました。近所のクリニックも日曜なので休診です。仕方がなく翌日まで待って大学病院に行きました。主治医は大学内にいるものの、外来の担当日ではなかったため対応してもらえませんでした。

 そこで、いつものクリニックで診てもらったのですが、動悸の原因は高血糖でした。クリニックの医師が大学病院に電話しましたが、主治医が外来を担当していないという理由で断られました。近くに住む娘さんが当院を知っていたので、母親を連れて来ました。

 このようなことは、外来診療をしているとよくあります。大学病院や総合病院をかかりつけにしていると、いざというときに診てくれません。「外来の担当日でないから」「休みだから」「手術中だから」などと断られます。ですから、家の近くのクリニックをかかりつけにするべきなのです。

 高齢者が総合病院や大学病院に薬だけもらいに行くのは合理的ではありません。1日がかりになって疲れるので大変です。実は大学の医師も疲れます。医師の長時間労働が問題になったため、4月からの働き方改革で、勤務医の労働時間が制限されています。大学病院は手術や専門に特化した難しい検査・治療をする場所ですので、病状が安定している薬だけの患者はクリニックが診るべきなのです。

 これは、以前から言われているのですが、現実的に進んでいません。実際、自分の患者をクリニックに紹介することも少なく(紹介できるクリニックが少ないのも原因ですが)、総合病院や大学病院の外来は薬だけもらう患者であふれています。いざというときに診てくれない病院をかかりつけにするのは大変危険で、患者が困ります。クリニックは普段から気軽に通院できる場所、大学病院は紹介されていく先だとすみ分けをしっかりさせないと、急な体調不良のとき、どこに行けばいいのか困る高齢者であふれ返るでしょう。

 今の日本の医療体制を三角形にして考えてみましょう。底辺に近い方をクリニック、頂点に近い部分を病院とします。一見するとクリニックは病院よりも多く、普通の三角形のようです。しかし、総合診療クリニックはほとんどありません。つまり、実際は底辺よりも、頂点の方が広い逆三角形なのです。そうすると、患者は病院に駆け込むようになるわけです。地域医療を守る視点からすれば効率的ではないクリニックが10万カ所もあり、本当に高齢者医療を考える総合診療クリニックがないのです。

 この逆三角形医療体制では、今後の高齢者を守る地域医療を支えられません。総合診療クリニックが全国に増え、病院が集約される三角形型になれば▽まず近くの総合診療かかりつけ医を受診する▽手術や精密検査などの高度な医療が必要ならば、責任を持って総合病院に紹介する▽治療が終われば、また総合診療かかりつけ医に戻ってくる――というクリニックと病院のすみ分けができます。