科学はこれまで何を追求してきたのか…2500年におよぶ「壮大な物語」

AI要約

『父が子に語る科学の話』は、親子の対話形式で科学の歴史を分かりやすく解説した書籍であり、物理学の歴史を古代ギリシャから現代まで網羅している。

著者は科学史を息子とのやり取りを通じて語り、科学の知的営為や天才たちの挑戦に焦点を当てて物語を展開している。

科学を静的な知識体系ではなく、常に問い直されるダイナミックなプロセスとして捉えており、読者を知的興奮に満ちた世界へと導いている。

科学はこれまで何を追求してきたのか…2500年におよぶ「壮大な物語」

古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、この世界のしくみを解き明かす大発見はどのように生まれてきたのか?

親子の対話形式でわかりやすく科学の歴史を描き出した新刊『父が子に語る科学の話』。本連載では、26万部を超えるベストセラー『独学大全』の著者・読書猿さんによる解説をお届けする。

*本記事は、ヨセフ・アガシ著/立花希一訳『父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

『父が子に語る科学の話』は、科学史家/科学哲学者であるヨセフ・アガシが、科学(物理学)の歴史を題材に、8歳の息子との対話を通して、科学がどのような知的営為であるかを丁寧に解説した書物である。

原著(The Continuing Revolution: A History of Physics from the Greeks to Einstein)は、1968年にニューヨークのMcGraw-Hill Book Companyから初版が出版されたが、現在まで科学入門として読まれ続けている好書である。

この本の特徴は、大きくふたつある。

ひとつは、アガシ自身の息子アーロンとの対話形式を採用することで、ともすれば難解で取っ付きにくいものとして敬遠されがちな科学の歴史を、驚くほど分かりやすく、そしてまるで物語を読むかのように親しみやすく描き出している点だ。専門用語は可能な限り避け、たとえ話や身近な例をふんだんに用いながら、息子の素朴な疑問や先走りする断定に対して、父親はそれを切って捨てず、優しい口調で息子とともに議論を重ねていく。

物理学を中心的なテーマとしながらも、知的営為としての科学全体の歴史と営みを視野に入れた壮大な物語が紡ぎ出される。古代ギリシャの哲学者アリストテレスが提唱した運動論を出発点とし、ニュートン力学の誕生、そしてアインシュタインの相対性理論へと至るまで、科学という壮大な物語が、読者を飽きさせることなく、知的興奮に満ちた世界へと誘う。

第二の特徴として、単に科学史上の出来事を羅列するのではなく、科学の歴史に燦然と輝く天才たちが、どのような問題意識を持ち、どのように思考を深め、そして当時の人々の常識を覆すような革新的な理論を構築していったのか、その挑戦の軌跡を丁寧に、そして克明に追いかけている点が挙げられる。科学を、完成された、揺るぎない知識体系として捉えるのではなく、絶えず問い直し更新され続けるダイナミックなプロセスとして捉える、著者の科学観を色濃く反映している。