核融合「ITER計画」9年の先送りは、核融合産業に何をもたらすのか?

AI要約

世界最大の核融合の国際プロジェクト「ITER」の計画が遅延している。その理由や影響について解説。

COVID-19パンデミックの影響や装置の修理・調整の必要性などがITER計画の遅延に影響している。遅延の背景には楽観的な計画もある。

新型コロナウイルスの影響など、ITER計画のスケジュール変更の背景を考察し、関係者の見解を紹介。

核融合「ITER計画」9年の先送りは、核融合産業に何をもたらすのか?

核融合発電の実現に向けて南フランスで進められている世界最大の核融合の国際プロジェクト「ITER」の計画が遅延している。

核融合は、1グラムの燃料から石油8トン分ものエネルギーを得られる可能性を秘めた次世代の技術として、ここ数年民間企業への投資も拡大し、世界的に注目を集めてきた。日本でも、この3月にフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)が発足している。

ITER計画は、日本をはじめアメリカ、中国、EU、ロシア、インド、韓国の7カ国・地域が参加する国際プロジェクトとして、1980年代から検討が進められてきた。7月初旬に開催されたITERの記者会見の中で、2025年までに予定していたプラズマ実験のスタート(「ファーストプラズマ」と言う)を、2033年以降に延期する方針であることが判明した。

この計画延期は、世界や日本の核融合産業にどのような影響を与えるのか。

ITERはなぜこれほど遅延することになったのか。理由はいくつかある。

まず、2020年以降、新型コロナウイルスの流行に伴い、世界中で製造工場の操業停止や海洋輸送が停滞していた。世界中で製造した巨大装置を南フランスに運び組み立てる上で、パンデミックは大きな障壁となった。また、実際に組み立てなどを進めていく過程で、いくつかの装置の修理・調整も必要となった。製造・組み立てに関わる計画も、「楽観的すぎた」というのがITERの見解だ。

ただ、こういった事情はなにもここ最近明らかになった話ではない。

実際、2020年の秋の段階で、すでに関係者から「2025年のファーストプラズマは難しい」という声が聞かれていた。これは、ITERのプレス向け資料にも記載されていることだ。そういった意味で、今回の「ITER計画の遅延」というニュースは、遅延そのものよりも「改めて現実的なベースラインが公開された」という側面の方が強いといえるだろう。

フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)の会長で核融合スタートアップ・京都フュージョニアリングの代表を務める小西哲之氏は、ITERの計画変更について

「今回発表された計画変更では、2016年に設定された内容(元々の計画)が最新の状況を踏まえてより合理的に更新され、フュージョンの学術的探究を推進するうえで必要な要素が伴った内容になっていると捉えています。また、計画見直しに伴う影響が最小限になるように配慮されており、関係者の努力に感謝したいです」

とBusiness Insider Japanの取材に答えた。