物理学者を困惑させた「シュバルツシルト解」から生じる二つの奇妙なこと。「凍りついた星」では何が凍っているのか?

AI要約

重力と天体にまつわる科学史を物理学的視点から紹介

凍りついた星とはブラックホールを指し、シュバルツシルト解が関連

シュバルツシルト解の数学的扱いと物理的解釈の難しさについて

物理学者を困惑させた「シュバルツシルト解」から生じる二つの奇妙なこと。「凍りついた星」では何が凍っているのか?

物理学でも最大の謎の一つとされているものが「重力」です。そこで、重力と天体にまつわる重要な科学史を、新刊『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から紹介します。

以前の記事「非業の死を遂げた天文学者・シュバルツシルト。アインシュタインも称賛し、その理解をも超えた彼の求めた『解』とは」では、「シュバルツシルト解」とブラックホールの存在について見ましたが、今回は、「凍りついた星」というキーワードからその性質を見ていくことにしましょう

毎年夏になると猛暑のニュースが話題となります。でも、この宇宙には「凍りついた星」とよばれる星が存在します。

みなさんは凍りついた星と聞いて、どのような星を思い浮かべるでしょうか。氷に閉ざされた星を想像したかもしれません。ここで紹介する星は、氷の星「icy star」ではなく、凍りついた星「frozen star」です。氷の星(icy star)は恒星から遠く離れているため、届く光がわずかで温度が低すぎる惑星のことです。水分子がその惑星に存在しても、低温のため固体の氷の状態でしか存在できない惑星のことです。

しかし、凍りついた星には固体の氷は存在しません。それでは、何が凍りついているのでしょうか。じつは、この呼び名は、大昔にはブラックホールを指していました。

天文学者カール・シュバルツシルトが、アインシュタイン方程式から、その厳密に解くことに成功し、「シュバルツシルト解」とよばれる解を得たことは以前にも紹介しました。この解において特殊なサイズを与える半径は「シュバルツシルト半径」とよばれ、ある質量の星から光が脱出できなくなる大きさを表し、ブラックホールの大きさの目安を与える便利な量です。

その後、オランダの有名な理論物理学者ヘンドリック・ローレンツの研究室で学生だったヨハネス・ロステは、シュバルツシルト解を正しく理解するための手がかりを得ました。

シュバルツシルトは、アインシュタイン方程式を解くという純粋に数学的な目的のため、物理的な解釈が難しい座標系を導入して計算しました。シュバルツシルトの座標系は、あくまで数学的なツールとしてです。そのため計算結果を物理的に解釈することを困難にしていました。