「基礎」が間違っているのに「応用」が成功してしまった理論…「熱機関」が現役でいられる理由

AI要約

物理に挫折した人に学び直しのチャンスを提供する『学び直し高校物理』が注目されている。

熱機関について考察し、古めかしいイメージがあるが現役で活躍していることを紹介する。

過去には基礎理論が誤っているにもかかわらず成功を収めた例が存在し、科学技術の進化の面白さを説明する。

「基礎」が間違っているのに「応用」が成功してしまった理論…「熱機関」が現役でいられる理由

物理に挫折したあなたに――。

読み物形式で、納得!感動!興奮!あきらめるのはまだ早い。

大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。

本記事では熱力学編から、熱機関についてくわしくみていきます。

※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

「熱機関」というと古めかしい機関車の蒸気機関などを思い浮かべる人も多い。古い技術でいまは使われていないと思っている人も多いかもしれないが、どっこい熱機関はバリバリの現役である。

熱機関で有名なのは、ジェームズ・ワットの蒸気機関だと思うが、カルノーが熱力学を正しく理解していなかったのと同じようにワットの熱力学の理解はいまの我々から見たら非常に遅れていた。ワット(W)は電磁気学編で出てきた単位時間当たりのエネルギー消費/供給の単位なので、そんなものに名前が残るほどすばらしい業績をあげたにもかかわらず、である。

しかし、カルノーと同様、ワットは「熱と仕事の等価性」はまるで理解していなかったが、熱機関の実用化には成功した。そもそもワットは1736年生まれ、1819年没のイギリス人なので、1818年生まれのジュールの業績だった熱と仕事の等価性を知るわけもない。

この「基礎が間違っているのに応用が成功してしまった」というのは変な気がするかもしれないが、わりとよくある話である。

たとえば動力飛行に初めて成功したライト兄弟。空を飛ぶ機械などなかったのだから理論的にどうやったら空を飛べるかという理論はまったくなく、まったくの試行錯誤で動力飛行を実現した。その証拠にライト兄弟の成功の報を受けた学術界は称賛に沸きかえるどころかむしろ「機械が飛ぶことは科学的に不可能」とコメントしたという。

これだけを読むと、なんて理解がない頭の固い連中だと思うかもしれない。しかし、現在でも、「科学的に不可能とされることを実現した」みたいな報道は枚挙に暇がないが、再現性にとぼしいものが大半だ。

科学技術が未熟だった19世紀は、こうした情報の大半がデマなので、そうしたトンデモニュースが出るたびに、いちいち取りあわなかったのは仕方ない面もある。