重力波の重要な性質「トランバース・トレースゼロ」を知ってますか?じつはこれが重力波を検出する手段です!

AI要約

重力波の観測に必要なもう一つの性質「トランスバース・トレースレス」とは何か?

地球上の振動や熱的な影響が鏡とレーザー光受信器の位置を変動させるため、重力波だけを検出することは難しい。

重力波によって進行方向に垂直な方向に変位が生じ、その垂直面内で面積が保たれる性質を利用して観測を行う。

重力波の重要な性質「トランバース・トレースゼロ」を知ってますか?じつはこれが重力波を検出する手段です!

 時空の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。以前の記事「重力波は縦波? それとも横波?」では、重力波が横波であることが観測に重要な手掛かりとなることを紹介しました。ただ、それだけでは重力波の観測には不足なようです。この記事では重力波観測に欠かせない重力波のもう一つの重要な性質を紹介します。

 *本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

 重力波は横波でした。ただ、それだけでは重力波を観測するためには完全ではありません。そこで重力波の持つもう一つの性質を紹介します。それが「トランスバース・トレースレス」とよばれるものです。聞いたことのない方が多いと思いますので、ていねいに見ていきたいと思います。

 地球上に置かれた実験装置は、少なからず地面からの振動を受けます。これによって、レーザー光受信器と鏡の間の距離は常に微小に変化しています。さらに、原子・分子のレベルで見れば、温度に応じて物体の表面の分子・原子は熱的な振動をします。

 そのため鏡の表面の位置は、原子レベルでは一定ではなくなります。これらの理由から、単一のレーザー光受信器と鏡の間の距離を測定するだけでは、他の原因から切り離して重力波だけを検出することは不可能です。

 そこで、重力波のもう一つの性質を利用します。以前の記事でふれましたが、投手がボールを投げる瞬間に発生する重力波は、ボールの進行方向と垂直に強く生じることを紹介しました。これは、横波である重力波によって、波の進行方向に対して垂直方向に変位が生じるということですが、このときその垂直面内の面積は保たれる性質があります。

 そこで、この垂直面内で微小な長方形を考えてみましょう。

 その長方形の面積は、「(縦の長さ)×(横の長さ)」です。重力波が通過する際、その進行方向の垂直方向に変位が生じますから、(縦の長さ)と(横の長さ)も変動するはずです。

 たとえば、縦の長さが2倍に伸びたとしましょう。この場合、横の長さは半分に縮みます。なぜなら、面積が一定だからです。

 つまり、進行方向に垂直な方向に変位が生じるのですが、プラスの変位、つまり伸びる方向(先ほどの長方形のたとえで言えば、縦方向)があれば、それに垂直な方向(長方形の横方向)にはマイナスの変位、すなわち縮みを引き起こすのです。