初期宇宙には “色付きブラックホール” が存在した? 暗黒物質探索の思わぬ副産物

AI要約

暗黒物質「ダークマター」の正体は未だに謎に包まれている。マサチューセッツ工科大学の研究チームが原始ブラックホールなどの存在をもとに調査を行い、色荷ブラックホールなどの異色の存在に辿り着いた。

現実の宇宙の構造は見える物質だけでは説明できない。暗黒物質は光とほとんど反応しないが、その存在によって銀河の回転曲線問題などが説明されている。

原始ブラックホールは宇宙誕生直後に生成された可能性があり、現在の宇宙にも残存しているかもしれないが、その生成過程は未だ解明されていない。

初期宇宙には “色付きブラックホール” が存在した? 暗黒物質探索の思わぬ副産物

重力を通してのみその存在を知ることができる「暗黒物質(ダークマター)」の正体は今でもよく分かっていません。候補の1つとして誕生直後の宇宙で生成されたとされる「原始ブラックホール(Primordial black hole)」があげられているものの、その生成過程はよく分かっていません。

マサチューセッツ工科大学のElba Alonso-Monsalve氏とDavid I. Kaiser氏の研究チームは、初期宇宙で原始ブラックホールが生成される過程を調査しました。その研究の副産物として、理論的には提唱されていたものの生成ルートが判明していない “異色” の存在であった、いわば「色荷ブラックホール」とでも表現できるような存在に辿り着きました。色荷ブラックホールはあまりにも小さすぎるため、現在の宇宙には残っていないと考えられていますが、それでも初期宇宙の歴史に無視できない影響を与えた可能性があります。

私たちの宇宙には恒星や惑星などの様々な物質があり、自ら光を放つか、もしくは反射した光を通して観察することができます。しかし、これらの “見える物質” の量で計算すると、理論と実態に食い違いが生じます。例えば、銀河は理論の上では回転が速すぎて分解してしまうはずです。銀河が形を保つためには “見える物質” による重力だけでは不十分であり、光が一切反応しない “見えない物質” の重力で繋ぎ止められていないといけなくなります。これは「銀河の回転曲線問題」と呼ばれています。

1930年代から提唱されて1970年代にはほぼ確定したこの問題を初めとして、宇宙には “見える物質” による重力だけでは説明のつかない構造が多数見つかっています。この “見えない物質” は、重力による影響ではその存在を知ることができるものの、光とはほとんど、あるいは全く反応しないことから「暗黒物質」と呼ばれています。

暗黒物質の正体は大きな謎であり、現在でもその手掛かりすらつかめていません。未知の素粒子や平行宇宙の影響といった現在の物理学の枠組みを大幅に超えた存在を仮定する説もありますが、これとは逆に、あまり突飛な存在を仮定せず、現状の理論でも存在を説明できる物質に頼る説もあります。その中の1つが「原始ブラックホール」です。

現在の宇宙で観察されているブラックホールは、重い恒星の中心部が重力崩壊して生まれたものか、それらのブラックホールが合体して巨大化したかのどちらかであると考えられています。この生成ルートの場合、ブラックホールはどんなに軽くても太陽の数倍程度の質量となり、その総数や総質量はおおよそ計算可能であるため、暗黒物質とはなり得ません。

その一方で、原始ブラックホールはまず生成ルートから異質な存在です。誕生直後の宇宙は非常に高エネルギーな場であるだけでなく、わずかながらも重大な影響を及ぼす密度の揺らぎがあったと考えられています。もしも密度が極めて高い領域がある場合、その場所は局所的に重力崩壊を起こして極小のブラックホールを生成するでしょう。これが原始ブラックホールです。

軽すぎる原始ブラックホールはホーキング放射(※1)と呼ばれるプロセスで蒸発して消えてしまい、重すぎる原始ブラックホールは暗黒物質となり得るほど大量には存在しないことが分かっています。しかしそれでも、1000億~1京t(10の17乗~22乗g)の原始ブラックホールは現在の宇宙でもかなりの数が存在し、暗黒物質の一部または全部を占めているという予測があります。

※1…ブラックホールの表面の近くで発生する量子力学的現象によって、ブラックホールが少しずつ質量を失う現象。最終的な運命は不明なものの、一般的には蒸発(消滅)すると考えられています。重いブラックホールでは遅く進行しますが、非常に軽い原始ブラックホールの場合は現在進行形で現象が進行しており、蒸発直前の激しい放射を観測できるのではないかという予測もあります。

ただし、誕生直後の宇宙は実験室でも生み出せないほどの超高温・超高圧の世界であるため、実測はおろかシミュレーション研究もあまり進んでいません。このため、原始ブラックホールが生成される過程は大きな謎でした。