なぜ「マクスウェルの悪魔」は実現不可能なのか?…マクスウェルの悪魔のパラドックスはどう解決されたのか

AI要約

マクスウェルの悪魔というパラドックスについて解説。窓を開け閉めするだけで氷を作る方法を考えた物理学者マクスウェルに由来する。

悪魔の頭の中の乱雑さが理解されず、最近の研究で決着がついた。乱雑さの増減により、温度が高いか低いかが示される。

コンピュータのメモリー状態に温度が定義できることが難解であるが、これが熱力学第二法則に反していることから、マクスウェルの悪魔は実現不可能である。

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 本記事では〈物理学の大問題に関係している可能性がある「重要な法則」、「熱力学第二法則」とは何なのか? 〉に引き続き、「マクスウェルの悪魔」のパラドックス​についてくわしくみていきます。

 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

 この考え方については昔「マクスウェルの悪魔」と呼ばれるパラドックスが考えられていた。コップの中に小部屋を作って開閉できる小さな窓をつける。エネルギーの小さい水分子がやってきたら窓を開けて中に入れ、逆に小部屋の中のエネルギーの大きな水分子が窓のそばに来たら開けてやって小部屋の外に逃がす。これを繰り返せば、窓を開け閉めするだけで氷を作れるのでは、というのだ。

 「マクスウェルの悪魔」というのはさすがに人間にはこれは無理なので、こういうことができる悪魔のような存在がいたら、という意味でこの名前がつけられた。

 マクスウェルというのは、このパラドックスを考えた、スコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルに由来する。

 このパラドックスは長いこと解明されなかったが、最近決着をみた。この議論では「悪魔の頭の中の乱雑さ」が考えられていなかった。つまり、悪魔は「水の分子のエネルギーが大きいか小さいかを覚える」必要がある。

 これはコンピュータでは、メモリーに情報が書き込まれたことに相当する。つまり、乱雑さが減っているので、温度が低い状態に相当する。次に、水の分子の状態を記憶するために一度メモリーをリセットして忘れないといけない。この結果、乱雑さが増す。これは温度が高いことになる。

 コンピュータのメモリーの中の状態が「温度が高い、低いに関係している」というのはとてもわかりにくいが、この「悪魔の脳の中のメモリーの『温度』を勝手に(外から仕事をせずに)上げたり下げたりできる」という前提が、熱力学第二法則に反しているからマクスウェルの悪魔は実現不可能だ、というのがいまの物理学の理解である。

 コンピュータのメモリーの中の状態に温度が定義できるというのはとんでもなく理解が難しいが、昔の物理学者は、熱と仕事が同じものだと理解するのにさえとても苦労したのだ。コンピュータのメモリーの中の状態に温度があって、熱が定義できることくらい、そんなに過激なことではないのではないだろうか。