「救急車のサイレン」でおなじみの「ドップラー効果」、じつは意外なところに応用されていた!

AI要約

ドップラー効果とは、音波や電磁波に共通して成立する現象であり、周波数が高い波は速度の向きによって色が変わることを示す。

この効果は、天文学から医療技術、自動車産業など様々な分野で活用されており、物体の速度や動きを測定する際に重要な役割を果たしている。

特にLiDARなどの最新技術では、位置だけでなく速度も同時に計測することが可能となり、自動運転車などの先端技術の発展に貢献している。

「救急車のサイレン」でおなじみの「ドップラー効果」、じつは意外なところに応用されていた!

物理に挫折したあなたに――。

読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。

 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。

 本記事では波動編から、ドップラー効果​​についてくわしくみていきます。

 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

 救急車がサイレンを鳴らしながら近づいてくるときは音が高く、通り過ぎると(遠ざかっていくときには)音が低く聞こえる、という経験は誰しもしたことがあると思う。これは「ドップラー効果」というものである。

 ドップラー効果は、音波だけではなく、電磁波にも成立する。周波数が高い、つまり、ある時間に発生する波が多いほうが波の数の計測精度は高くなるので、電磁波で計測したほうが精度がよくなる。

 ドップラー効果を可視光でやった場合には、遠ざかる場合には赤く、近づく場合には青くなる。光の色は周波数で決まっていて、周波数が低いほど色は赤くなるからだ。一方、波長が短いスペクトラムの左側は周波数が高くなる。これは光源が近づく場合に相当する。つまり、星(光源)が近づく場合は星の色は青みを帯びる。

 天文学者のハッブルはこの効果を利用して地球から見てほとんどの恒星が遠ざかっていることを発見し、「どの方向にも遠ざかって見えるには宇宙全体が広がっている以外にありえない」と結論付けた。これが後にビッグバン仮説の大きな傍証となるのである。ドップラー効果、侮れない。

 ドップラー効果にはいろいろな応用例がある。たとえば、プロ野球などでよくピッチャーの投球の球速が表示されるが、あれは電磁波をボールに向かって照射し、反射波の振動数を検査して球速を測っているのである。

 反射波といえども、反射した後はボールを音源とみなすことができるので、高い周波数が戻ってくるほど、球速が速いので、簡単に球速を調べることができる。この原理で車の速度も測れるので、警察官が速度違反の取り締まりをする場合にもこの装置は普通に使われている。

 物体の速度をただ測る以外にもドップラー効果には重要な応用事例がある。画像探査装置である。健康診断のときの内臓検査や、妊娠中の胎児の様子を観察するために使われる超音波断層撮影機とか雨雲の様子を調べる雨雲レーダーは、ドップラー効果を用いている。

 ドップラー効果で検出できるのは音源の動きだけだ。超音波断層撮影機の場合は、超音波を体に照射し、反射して戻ってくる超音波を観測する。ドップラー効果で測れるのは速度だけだが、体内には血流など動きのある部分があるので、ドップラー効果で周波数がどれくらい変わっているかを表示すれば、相対的な速度の大小を濃淡で表示できる。

 雨雲レーダーも同じで、雨雲の動きを可視化できる。雨雲に向かって発射した電磁波にドップラー効果を併用することで位置と速度を同時に計測できる。

 位置の遠隔測定に加えて、ドップラー効果を用いて速度も同時測定する方法は広がりを見せている。たとえば、自動運転車が自己の周囲をレーダーを用いて計測するLiDARというレーザー光を用いた一種のレーダーがある。LiDARは自動運転を実現するためのキーデバイスだ。機械学習を用いたAIが自動運転のための欠くべからざる頭脳であるとするならば、LiDARのほうは自動運転に不可欠な目ということになる。

 このLiDARは最近はiPhoneにも実装されている一般的なデバイスとなったが、電磁波の一種である光の反射を用いているので、原理的には反射光の周波数を調べることで対象の速度も同時計測できる。

 車で自動運転を実施するためには、自動運転を制御する車載コンピュータが、車に向かってくる物体と遠ざかっていく物体を正しく認識する必要がある。従来は連続した時間の計測の差分から速度を推定していたが、ドップラー効果を併用することで位置の確認と同時に速度を計測して、自分に向かってくる危険な物体か、遠ざかっていくとりあえずは気にしなくてよい物体か瞬時にわかるようになった。

 今後も位置に加えて速度も同時計測できるドップラー効果の可視化装置との併用は技術的に広がっていくことが予想される。