今この瞬間に太陽が消滅したら地球はどうなる?アインシュタイン方程式が解決した「万有引力の矛盾」とは

AI要約

宇宙空間の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在が世界に衝撃を与えており、それを受けて最新の宇宙論が紹介される『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』という書籍が注目を集めている。

アインシュタイン方程式によって表現される重力の性質について解説しながら、宇宙誕生に迫る内容が提供されている。

重力波の理論的な発見者であるアインシュタインの苦労や誤解、そして重力波の存在が確認されてもなお、その検出が困難な理由について詳細に明かされている。

今この瞬間に太陽が消滅したら地球はどうなる?アインシュタイン方程式が解決した「万有引力の矛盾」とは

 宇宙空間の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。

 この記事では現代の物理学でも最大の謎の一つとされている「重力」について考察しながら、アインシュタインが生み出した宇宙を記述する数式「アインシュタイン方程式」が表していた重力の性質について紹介します。

 *本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

 SF的な状況を想像してみましょう。

 いま、太陽が突然消滅したとします。すると、万有引力の法則では、同時に地球に働く万有引力がなくなってしまい、地球は太陽系から飛び出すことになります。

 しかし、太陽からの光が地球に届くまでには約8分間かかりますから、太陽からの万有引力がなくなって地球の軌道が変化しても8分間は太陽が見えているのです。この状況は、100万光年離れた星に対しても当てはまります。100万光年先の出来事が、同時に地球に影響するなんて、何か不思議な感じがします。

 アインシュタイン方程式を見つけた翌年の1916年、アインシュタインは新しい物理現象に気づきました。

 アインシュタイン方程式の解の一つが、重力場が時間的に変動しながら伝わる状況を表現していたのです。この状況は「重力波」とよばれます。ちなみに、ニュートンの万有引力は物体に働きますが、その万有引力がある速度で伝わることはありません。強いていえば、瞬時に伝わるのが万有引力です。

 このような、いくら離れていても瞬時に伝わってしまう問題は、重力波がある速度で伝わるため、一般相対性理論では生じません。重力波観測によって、重力波は光速で伝わることがわかっています。

 重力波現象の理論的な発見者であるアインシュタインですが、その後、彼は別の計算結果から、一度は重力波の存在を否定したことがあります。重力波を発見した当初、彼は近似的な計算を用いていたのですが、厳密な計算をしようとしたところ、無限大が数式に生じたため、その無限大の原因が重力波の存在を仮定したことだと彼は勘違いしたのでした。

 実は、その無限大の理由は重力波のせいではなく、彼が計算に使用した座標系が悪かったためでした。その後、一般相対性理論に関する理論研究が進み、理論的には重力波の存在が確実になりました。

 これまで見てきたように、質量を持った物体の周りの空間は曲がっていて、その物体が運動すれば、その周りの空間の曲がり具合が変動します。これが重力波です。つまり、質量を持った物体の運動によって重力波が生じます。

 ただし、確実だったのは理論計算だけで、観測のほうはあまり進歩しませんでした。なぜでしょうか。

 それは重力が、とても小さい力だったためです。

 たとえば、時速160キロメートルで野球ボールを投げ出したとしましょう。この場合に生じる重力波の大きさは、せいぜい10のマイナス43乗程度です。この計算の詳細は、「メジャーリーグ投手の放つ重力波」という記事しますのでお楽しみに。

 この重力波は、現在稼働している重力波検出装置の感度より20桁以上も小さく、まったく検出不可能です。

 ここで、重力波の大きさに単位はないのかと思った方もいらっしゃるかもしれません。実は、重力波の強さは無次元の量として計算されるため単位は存在しないのです。