「なぜ被爆者と認めない」 被爆体験者に新たな救済策、長崎の原告ら怒り 「救われる」と一定評価も

AI要約

政府が被爆体験者の医療費助成を拡充し、一部原告を被爆者と認めた長崎地裁判決に控訴する方針を表明。体験者らは無情な結果に怒りを表明。

被爆体験者同等の医療費助成を求める声もありつつも、国と県、長崎市の姿勢に批判が相次いでいる。

被爆体験者訴訟で勝訴したものの控訴が続くなか、困難な状況に立ち向かう原告らの怒りや絶望が表面化。

「なぜ被爆者と認めない」 被爆体験者に新たな救済策、長崎の原告ら怒り 「救われる」と一定評価も

 「お金の問題じゃない」-。「被爆体験者」の医療費助成を拡充し、一部原告を被爆者と認めた長崎地裁判決に控訴する政府の方針が表明された21日、全面救済に向け懸命に闘い続けてきた体験者の原告は「被爆者」と認められない無情な結果に怒りをあらわにした。「病気で苦しむ人が救われる」と評価する声も出たが、国と県、長崎市の姿勢に批判が相次いだ。

 午前8時半過ぎ。原告団長の岩永千代子さん(88)は長崎市内の自宅で、報道陣が用意した岸田文雄首相の会見映像を見た。首相が話し終えると表情が曇り「被爆者認定でないなら論外。お金の問題じゃない」と無念そうに語った。

 今年8月9日、岩永さんら体験者と初めて面会した岸田首相は、その場で合理的解決に向けた検討を指示し、体験者らにいたわりの声をかけた。岩永さんは「これで救われる」と信じた。

 進展がないまま迎えた今月9日の長崎地裁判決は、東長崎地区の原告15人を被爆者と認めた。原告らは県市に控訴を断念するよう求めてきた。だが、もたらされた結果は原告の願いとはあまりにも懸け離れていた。広島では2021年、援護区域外で「黒い雨」に遭った人を被爆者と認めた広島高裁判決が確定している。「これは差別。岸田首相の考えた『合理的』は広島との分断なのか」

 過去の被爆体験者訴訟で第2陣原告を率いた山内武さん(81)は「被爆者同等の医療費助成をするなら、体験者も被爆者だと認めればいい」と憤った。

 第2陣訴訟も長崎地裁で一部勝訴したが、被告側が控訴し、最高裁で全員敗訴が確定した。「今回認められた15人だけでも控訴しない決断をしてほしかった。体がついていかないのが一番心配だ」と不安を口にした。

 県市の姿勢にも批判が相次いだ。判決後、大石賢吾知事と鈴木史朗市長は原告の面会要請や協議に応じず、18日にようやく「立ち話」の形で面会が実現した。山内さんは「当事者に会おうともせずに無視して控訴に持ち込んだ。『寄り添う』と言っていたのに」と悔しがった。

 共に闘った仲間との「分断」に心を痛めながら長崎地裁で勝訴した原告も失望の表情。濵田武男さん(84)は「控訴は絶対ないと思っていただけにショックは大きい」と悲しんだ。「広島の黒い雨訴訟では控訴を断念したのにどうして長崎ができないのか。みんな年を取っている。早く平等にして」と訴えた。末永ミツ子さん(79)は「せっかく勝訴したので認めてほしかった。期待していたのに悔しい」と落胆した。

 裁判に加わらずに体験者の救済を目指す長崎被爆地域拡大協議会の池山道夫会長(83)は、医療費拡充の方針を「病気で苦しむ人が救われることは肯定的に受け止めないといけない」と一定評価した。一方で医療費助成拡大について「思い切った施策ではない。体験者が分断された現状は変わらない」と不満をあらわにした。