伊藤環境大臣は「2年以内の健康調査」に言及したが、水俣病の実態解明には程遠い現状が横たわる 検査能力は年間500人、精度にも課題 専門家は「民間の知見導入」を訴える

AI要約

伊藤信太郎環境相は、水俣病関係団体との再懇談で、不知火海沿岸の住民健康調査を2年以内に実施する方針を示した。

環境省が開発した手法は精度に課題があり、効果的な調査が不透明。

専門家は民間の蓄積を取り入れるべきだと提言している。

伊藤環境大臣は「2年以内の健康調査」に言及したが、水俣病の実態解明には程遠い現状が横たわる 検査能力は年間500人、精度にも課題 専門家は「民間の知見導入」を訴える

 伊藤信太郎環境相は11日まで計3日間にわたった水俣病関係団体との再懇談で、鹿児島、熊本両県にまたがる不知火海(八代海)沿岸を対象にした住民の健康調査を、遅くとも2年以内に実施する方針を示した。開始時期に言及したのは初めてだが、環境省が開発を進める手法は検査人数や精度などの課題が指摘され、被害の実態解明につながるかは未知数だ。専門家は「効果的な疫学調査のために民間の蓄積を取り入れるべきだ」と提言する。

 2009年施行の水俣病特別措置法は、国に不知火海沿岸に居住した人の健康や、メチル水銀が健康に与える影響の調査研究について速やかな実施と、その手法の開発を求めた。

 国立水俣病総合研究センター(国水研、熊本県水俣市)は22年12月、脳磁計と磁気共鳴画像装置(MRI)を組み合わせ、メチル水銀の脳への影響を客観的に診断する研究成果を公表。環境省は23年6月、健康調査の在り方を検討する研究班を立ち上げた。

 水俣病はメチル水銀が原因物質で、脳神経が障害を受けることで発症。感覚障害や運動失調などの症状がみられる。同省が約18億円(09~23年度)をかけて開発した手法は、脳磁計で大脳の感覚異常、MRIで小脳の萎縮などを評価する。

 国水研の報告では、認定患者の8割でメチル水銀の影響の可能性を示す反応を検出した一方、健常者の1割でも同様の反応があった。精度を疑問視する声も聞かれる中、伊藤氏は6月の衆院環境委員会で「いかなる医学的検査でも(病気でない人を検査して陰性になる)特異度は100%にできない」と強調した。

 4月に公表された研究班の23年度報告書によると、メチル水銀による影響を地域間で比較するため、調査対象を(1)認定患者発生地域(2)その周辺地域(3)有機水銀汚染とは無関係の地域-と想定。ただ、実施場所の国水研の検査能力には限りがあり、年間の実施可能人数は500人にとどまる。

 東京経済大学の尾崎寛直教授(環境政策)は「検査は国水研で行うほかなく、不知火海一帯に広がっていると推定される被害者を検査で見いだし、被害の全容解明を行うことは現実的ではない」と指摘する。

 既に公式確認から68年、特措法施行から15年が経過する。「高齢化が進み、5年、10年かけてやる時間的余裕はない。民間の医師団や研究者らによる実証研究・調査の蓄積を取り入れ、スピード感を持って取り組むことが必要だ」と話す。