貧乏なのに贅沢な餃子って?大連のお母さんの愛が詰まったディープな餃子の迷宮

AI要約

新橋の餃子の名店「一味玲玲」は自力で餃子を選ぶ楽しさを提供するワンダーランド。

創業者の神山玲さんは野菜をたっぷり使い体にも優しい餃子を提供。

特にレモン餃子や貧乏餃子はおすすめで、店内はいつも楽しそうな大人たちで満席。

 美味しくて体にもお財布にも優しくて、ちょくちょく通いたくなって「今度、一緒にご飯食べましょうよ」と言われたときにはひとを連れて行きたくなる。そんなお店を食べ歩きの名人たちが紹介します。

 第1回目は新橋の餃子の名店「一味玲玲」です。

 文・取材・食べる人=小泉しゃこ 撮影=花井雄也 お店を選ぶ人=木村千夏 編集協力=春燈社(小西洋一)

■ 全餃子美味

 レストランにアラカルトとお任せコースがあると、日本人はたいていお任せコースを選ぶそうだ。自分で選ぶという行為がどうも苦手らしい。だが新橋「一味玲玲(いちみりんりん)」に行くときはその気持ちは捨てたほうがよい。

 用意されたメニューには18種類もの餃子が並ぶ。それぞれに水餃子、焼き餃子、蒸し餃子があり、自家製ニンニク醤油、自家製酢醤油で味の変化をつけることもできるから順列・組み合わせで相当な数になる。メニューには大きくこう書いてある。「餃子を探す私の大冒険」。そう、ここは餃子のワンダーランドなのだ。

 好みの餃子を自力で選ぶことを楽しまない手はない。店からのおすすめとして宝探しのヒントのように赤丸印をつけてくれてはいるが、それぞれの餃子に1個または2個の印がついているので、やっぱり迷って決められない人はいるだろう。だからといって中国から来た店のスタッフにおすすめを聞こうものなら、「ゼンブ オイシイ ヨ♡」と、ホントにどれもおいしいんだろうと思わせるような笑顔で答えが返ってくるので、最初から自分で選んだほうがよい。

■ 「野菜をいっぱい食べなさい」大連の母の愛情料理

 豊富なメニューの仕掛人は店名の「玲」の持ち主、ニコニコ笑顔に癒される創業者の神山玲さんである。といって、別に狙って仕掛けようとしたわけではなく、玲さんの持ち前のサービス精神で自然にやっていたらこうなっちゃった、という感じだ。毎日通う常連客に飽きずに食べてもらいたくて、日替わりでいろいろ揃えていたら、30種類にもなったことがあるという。ようやくしぼってこの18種類というわけだ。

 玲さんは、もともとは今の場所から少し離れた場所で小さな料理屋さんをやっていた。いろいろ思考錯誤して焼きトン&焼き鳥の店も作ったそうだが、今ひとつ、営業的にうまくいかない。そんなとき常連客たちの薦めで餃子専門店にしてみたら、これが評判になった。

 玲さんは餃子の故郷とされる中国の大連出身で、餃子づくりはお手のものだ。大連では餃子はめでたいものとされ、祭日や記念日に家族で餃子を作って楽しむ習慣がある。玲さんは季節の野菜をたっぷり盛り込んで、体にもやさしいことを心がけて30種類もの薬膳を盛り込みながら何個も何個も餃子を作り続けてきた。

 メニューにはジュワッと肉汁が溢れ出た餃子の断面写真とともにベースとなる肉である豚、牛、羊のマークがついていて、特徴的な素材の写真も添えられてある。牡蠣、ホタテ、エビといったダイレクトにうまそうな素材も目をひくが、トマト、セロリ、パクチー、シイタケといった野菜名がはっきりと主張しているのが印象的だ。

 玲さんの餃子の特徴は、強力粉が多めの伸びのある皮に閉じ込めた餃子餡の素材感とその香りにある。たとえばトマトは最近よく見かける甘味に頼るようなものではなく、酸味があって味が濃い昔ながらのトマトを、セロリは水分が多くて適度な苦味もあるアメリカ産のものを、といったように、あくまでも「餃子に合うもの」を意識して探し求め、調理した結果だ。

■ 制作陣オススメはレモン餃子と貧乏餃子です

 今回ご紹介するレモンは、皮がしっかりとしていて香りが高いものを選び、皮は苦味が入らないように黄色い部分だけをすりおろし、果汁とともに餡に加えてある。このレモンを赤丸のついた蒸し餃子タイプで選ぶと、小さなステンレスの蒸篭に入って運ばれてくる。蒸されることで柔らかくみずみずしくなった皮が肉汁を抱え、口にほおばるとすぐに“レモン感”が弾ける。果汁の酸味と爽やかな香りが、しっとりとした脂身と赤身に濃いうま味を持つLYB(るいびぶた)ととてもよく合う。これは、クセになる。

 ところで、これらのメニューのなかでもっとも高級感のあるフカヒレの近くに、貧困/ビンボウという餃子がある。中身はエビ、卵、ニラを使った餃子で、 貧乏の名はその昔、肉の価格が高かった頃に当時の安い食材を集めて作ったことに由来するという。名前のインパクトは大で、それでいてニラタマっぽくておいしいということで、人気なのだそうだ。「一味玲玲」の30席くらいの小さな店内はいつも満席で、いろいろな餃子をズラリと並べて、大人たちがとても楽しそうに冒険している。