暑さの続くいまにぴったりの酒、颯爽と美しく、ドライ…先代がつくった瓶内発酵のクラシック・スパークリング

AI要約

安芸津町三津は吟醸酒発祥の地であり、今田酒造本店の人気銘柄「富久長」が愛されている。

今田酒造本店のスパークリング日本酒「白美」は、1980年代に誕生したクラシックな個性派酒で、瓶内発酵と火入れを経て作られている。

「白美」は、爽快なキレ味とやさしい泡立ちが特徴で、バーベキューや和食、餃子など様々な料理との相性が良い。

 文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=今田酒造本店

■ “吟醸酒発祥の地”、安芸津町三津

 淡雪のような美しいうすにごりの酒をグラスに注げば、細やかな泡が弾ける。シュワシュワ感とともに感じる印象は、爽快&ドライ!  多くの日本酒ファンに愛される人気銘柄「富久長」を醸す、今田酒造本店らしいやさしいうまみとともに、さわやかな甘酸っぱさも広がる。 瀬戸内海に面した小さな港町、広島県安芸津町。なかでもひときわ清らかな三津湾に面した安芸津町三津は、知る人ぞ知る「吟醸酒発祥の地」だ。

 “吟醸酒の父”ともいわれるのが、1847年、この地に生まれた醸造家の三浦仙三郎。彼はそれまで酒造りに不向きとされてきた軟水の発酵力の弱さを逆手にとり、低温で醸すという「軟水醸造法」を確立。このまったく新しい技術によって、現在、当たり前のように飲まれている吟醸酒は誕生した。

■ ファンが魅了される「富久長」の温かさ、やわらかさ

 明治元(1868)年、安芸津町三津に創業した今田酒造本店の銘柄「富久長」は、三浦仙三郎によって名づけられた。その持ち味は、軟水によるやわらかさと繊細さ。また、「富久長」といえば、100年以上姿を消していた広島の酒米、八反系最古の在来品種「八反草」を復活栽培させ、商品化に成功したことでも知られる。温かみのあるやわらかな味わいと、心地よい余韻、そして軽やかさに魅了され、とりつかれてしまった日本酒ファンも多いにちがいない。

 そんな今田酒造本店が醸すスパークリング日本酒の「白美」は、カジュアルな魅力を放つ個性派酒。いまどきの新しいタイプの日本酒なのかと思いきや、じつは誕生したのは1980年代というクラシック・アイテム!  4代目であり杜氏の今田美穂さんに、そのなりたちを教えていただいた。

■ 1980年代に誕生したクラシック・スパークリング

 「白美は40年近く前、私の父の代に開発されました。おそらく、もっとも早い時期に誕生したスパークリング日本酒のひとつだったと思います。瓶内発酵させる製法で、当初は生酒でしたが、ガスボリュームを安定させることが難しく、毎年調整を進めながら現在の形にたどり着きました。現在は火入れをしています」

 瓶内発酵といっても、瓶内に酵母と糖分を加えて2次発酵させるシャンパンなどの製法と違い、日本酒は瓶詰め後に何かを足すことが酒税法上で許されていない。そのため生酒を瓶に詰めたあとは何も足さず、生き続けている酵母によって1次発酵を継続させることで炭酸ガスを瓶内に充満させる。ある程度ガスがたまったところで、酵母を失活させるために熱処理している。

 「ふつうの日本酒の瓶では、火入れをするとガスボリュームが高くなって耐えられず、破裂してしまうため、瓶もキャップも耐圧性の高い炭酸飲料用の瓶を採用しています」

 瓶詰めしてからガスがたまるまでの期間は、外気温や酒の状態によっても変わるため一概には言えないが、1か月ほどかかるという。

■ バーベキューにも辛口純米のスパークリング

 「白美」の泡は、シュワシュワとした爽快さがありながらもやさしい。キンキンに冷えていなくとも、開栓時にキャップが勢いよく飛んで吹きこぼれる心配はほぼない。絶妙なガス圧なのだ。

 乾杯酒としてはもちろん、ドライなキレ味と絶妙なガス感が、食中酒としても魅力を発揮する。まだ暑さが残る時期、バーベキューなどのアウトドア料理と合わせるのもきっと最高だろう。

 「天ぷらや焼き魚といった和食はもちろん、意外なところでは餃子も合いますよ。カジュアルに楽しんでいただけたらと思います」

 と今田さん。季節の味覚とともに、ドライな辛口純米のスパークリング日本酒を楽しもう。