安価のイメージあった電気ケトルが値上がりする可能性…8月から完全仕様変更(多賀一晃/生活家電.com)

AI要約

電気用品安全法(PSE)に基づく新しいテストが導入され、電気ケトルの安全性が向上する

テストの背景には幼児のやけど事故があり、日本メーカーと海外メーカーの対応が異なる


安価な電気ケトルも安全機能が必要となり、価格と安全性のバランスが変化する見込み

安価のイメージあった電気ケトルが値上がりする可能性…8月から完全仕様変更(多賀一晃/生活家電.com)

【家電のことはオイラに聞いて!】#61

 家電メーカー、販売会社が守らなければならない法律に電気用品安全法(電安法、PSE)があります。電気用品による危険及び障害の発生の防止を目的とする法律で、約450品目が対象になっています。電気用品ごと、達成基準とテスト方法を決め、家電メーカー、販売会社が、そのテストを行い、適合した製品のみ、製造、販売が認められます。適合製品に付くのがPSEマークです。

 今から3年前の2021年5月から新しいテストが導入されることが決まりました。電気ケトルもしくはそれに類する家電に対し「転倒流水試験」が追加されたのです。電気ケトルなどが倒れた時、湯がこぼれない仕様にするためのものです。

 背景には、日本小児科学会の働き掛けもありました。

 幼児の大やけどの原因のひとつは、沸騰直後のお湯が入った電気ケトルを倒して熱湯を浴びること。皮膚の薄い幼児は、ひとたまりもありません。

 あまりの酷さに、ある小児科医がメーカーに「倒れてもお湯が漏れないようにして欲しい」と要望したところ、そのメーカーは「私どもの製品は赤ちゃんが当たっても転倒することはありません」と回答したそうです。

 医師らは赤ちゃんのハイハイ時の力を測定。平均13キロでした。この力でテストすると、どのメーカーの電気ケトルも倒れたそうです。

 苦しいのは、やけどを負った幼児。入院治療、ひどい場合は、数年にわたり、皮膚を移植して治療することもあります。その間、まともに遊べず、トラウマにもなる。女児の場合、後々まで尾を引きます。医療費もばかにならない。数十万から数百万かかるそうです。そのような人が年に40人。全体で2億円もの医療負担になっているそうです。

 安全意識の高い象印やタイガーなどの日本メーカーは、元々こういう事例を想定、製品に織り込み済みです。

 問題は海外メーカー。ケトル=やかんという認識のため、中に熱湯が入っていればやけどするのは当たり前という考えをします。またシンプルな作りでないと、誰でも買える値段にはならない。そのため安価モデルには、やかんと同じように、安全機能は付いていません。

 改正電安法の猶予期間は今年の7月31日まで。翌8月1日から、新テストに適合できない製品の製造、輸入が禁止されました。

 電気ケトルで有名な海外ブランド、ティファールに今後の対応について尋ねたところ、<法律に準拠するため、2023年以降に日本で発売した新製品はすべて「転倒お湯漏れ防止機能」付きに変更済み。防止機能のないモデルの在庫は売り切って廃番>。

 気になる価格については、<コストは上がるが、できる限り求めやすい価格で対応します>とのことでした。

 電気ケトル=安価というイメージがありましたが、これからは変わりそうです。

(多賀一晃/生活家電.com主宰)