ヤフオク7万円で買ったシトロエンのオーナー、エンジン編集部ウエダ、フランスの聖地でついに秘密のバックヤードに潜入! さてこの写真のクルマは何でしょう?

AI要約

フランス・パリ郊外のシトロエン博物館で行われたエグザンティアの特別なトークショーと秘密のバックヤードへの潜入記が熱く語られた。

エグザンティアの開発当時の責任者が足まわりの開発や4WSシステムについて語り、シトロエンの歴史の転換点に触れられた。

エグザンティア・ターボ4x4ラリークロスやアクティバ2のエピソード、そして意外なサプライズが明かされ、ドライブで空港に送ってもらい旅が幕を閉じた。

ヤフオク7万円で買ったシトロエンのオーナー、エンジン編集部ウエダ、フランスの聖地でついに秘密のバックヤードに潜入! さてこの写真のクルマは何でしょう?

13回に渡ってお送りしてきた、ポーランドとフランスという2つの国のシトロエンとエグザンティアにまつわる長期リポートの海外篇。最終回はフランス・パリ郊外の、今はもう閉館してしまったシトロエンの博物館、コンセルヴァトワール内で行われた特別なゲストを招いて行われたトークショーの続きと、秘密のバックヤードへの潜入記をお届けする。

◆幻となった4WSシステム

かつてのエグザンティア開発陣、いわばレジェンドが登壇する特別なトークショーはまだまだ続く。次に話しはじめたのはエグザンティアの開発当時の足まわりの責任者であり、シトロエンのハイドロニューマチック・サスペンション部品を製造するアスニエール工場長でもあった、Emmanuel Lescaut(エマニュエル・レショー)さんだ。レショーさんはまず当時一緒に関わったスタッフについて紹介し、開発・設計部隊の規模について教えてくれた。当時はサスペンション、ステアリング、ブレーキの3つのチームにそれぞれに約70人ずつ、200~250人が関わっていたという。

さらにイラストなどのスライドを多用しながら、タイヤの特性と自動車のコーナリング中の挙動の関係性を、スキーヤーの足の力のかけ方などを例に挙げながら紹介していく。

続いてこの時代シトロエンの、あくまでドライバー自身による緊急回避が前提であることを踏まえた、リアのスライドとドリフトを許容する車両特性について触れた後、参加者からの質問に答えながら、当時の最新技術に話が及んだ。

コンセプトカーのアクティバ1ではフロントにダブルウィッシュボーンを採用したこと、さらに4輪操舵によって、200km/h走行中にトラックを追い越すようなレーンチェンジ・テストを容易にクリアできるようになったこと。当時はシトロエンCXをベースにした4WSの実験車両が使われており、リア・サスペンションはプジョー605のものを流用していたそうだ。

「プジョーとシトロエンはセッティングについて、とても異なる哲学をお互いに持っていました。私はプジョーもシトロエンも両方大好きですが、多くの議論がありましたよ。よくパリのジャベルで話し合いましたね」

シトロエンはなぜハイドローリック・サスペンションの歴史を閉じたのか、という参加者からの質問に、レショーさんは口ぶりを変えることなく、こう答えた。

「それは高価だからです。舗装された道路が主になり、田舎はまだ路面の荒れている場所も残っているとはいえ、それが販売に結びつく要因にはなりません。ハイドローリック・システムは主流にはならなかった。金属のサスペンションも可変ダンピングなど、大きく進化しました。タイヤをはじめとするゴム素材も同様に進化しています」

グローバル化が押し進む時代を見据えての経営陣の判断は致し方ないことだったとは思う。でも、そんなあっさりと捨ててしまっていいものだったわけがない。ちょっと遠くを見るようなレショーさんの表情から、悔しさが伝わってくるような気がしてならなかった。そして彼自身が深く関わった4WSの技術も、ライバルのルノーはラグナやメガーヌで市販車へ投入できたが、結局PSAグループとしては、市販化は実現しなかった。

「時には同じテーマで戦うこともありますが、必ずしも追従しなければならないわけではありません。上層部との話し合いが上手くいかないこともありますよ。サスペンションと同じく、コストが理由ですね。ルノーの4WSのコスト解決策は賢明で、残念ながら我々は同じようなシステム簡略化のアイデアを持っていなかったのです」

◆モンスターとサプライズ

その後もレショーさんへの熱心な参加者からの質問は、まったく終わりそうになかった。進行役のベリニエさんが、コンセルヴァトワールの管理人であるドゥニ・ユイユさんへマイクを渡すことができたのは、もう開始から2時間が過ぎようとしていた頃だった。ユイユさんは博物館所蔵のエグザンティアたちにまつわるいくつかのエピソードと、唯一モータースポーツに参戦し、1994年から1999年末までの6年間で5つのタイトルを獲得したエグザンティア・ターボ4×4ラリークロスについて紹介した。

エグザンティア・ターボ4×4ラリークロスは、BX由来の1.9リットル・エンジンをギャレット製ターボで過給し、さらに搭載方法を横方向から縦方向に置き換えてしまった完全な競技用の4輪駆動のレーシング・マシンだ。最終的には最高出力はなんと700ps以上まで引き上げられている。さらにはオーバー・フェンダーと巨大なウイングで武装し、市販車とまったく異なるハイドローリック・システムを備えた、いわばモンスター・エグザンティアである。

これもひと目見たかった1台だったのだが、この日、エグザンティア・ターボ4×4ラリークロスは残念ながら不在だった。しかし現在69歳になるかつてのドライバー、ジャン=リュック・パイエさん自らが、メンテナンス中の実車について動画の中で説明をしてくれた。そして5月に彼のようなレジェンド・ドライバーが参加するイベントへ、このモンスターでエントリーすると意欲を見せた。

いやはやそれにしても、エグザンティアにまつわるこれほどまでに濃いトークが展開するとは、イベント参加前にはまったく想像していなかった。まさにお腹一杯で頭はオーバヒート寸前。本当に遠くパリまで駆けつけた甲斐があったというものである。

しかもトークショーの最後に、聞き捨てならないことがもう1つ発表された。

「コンセルヴァトワールからサプライズがあります。エグザンティアに詳しく、2台のコンセプトカー、アクティバのことをよく知っている皆さんは、館内にアクティバ1だけしか飾られておらず、アクティバ2がいなかったことに気がついたかもしれません。実はアクティバ2はバックヤードのファクトリー・スペースにいます。リフトに上がっているので、下まわりを覗いたり、写真を撮ったりできます。大勢では入れないので、グループに分けてメカニックが誘導します。ご自由にどうぞ!」

一瞬言葉が聞き取れず出遅れてしまったのだが、さきほど固く閉じられていた秘密のバックヤードへの扉は、この時より参加者に開放された!! 先ほどいったん追い出されてしまったのは、アクティバ2がこの日の来場者に向けた、コンセルヴァトワールからのとっておきのサプライズだったからだ。

このなんともうれしいプレゼントのおかげで、僕は無事ファクトリー・スペースへ再び潜入。念願だったアクティバ2の姿を、じっくりと360度全方位からまじまじと眺め、存分にカメラに収めた。残念だったのはリフトに上がったままだったので、室内が覗けなかったことだけである。

まだまだ名残惜しかったのだが、そうこうしているとフランスを発つ飛行機の時刻が迫ってきた。アクティバ・クラブ代表ベリニエさんに改めて礼をいいに行くと、彼はわざわざ僕のために、シャルルドゴール空港までのクルマも用意しているという。しかも案内された駐車場にいたのは、漆黒のシトロエンC6だった!

オーナーのVincent Muser(ヴァンソン・ミュジー)さんはもちろんアクティバ・クラブのメンバーだそうだ。このC6に加え、エグザンティアV6アクティバとアミ8ブレーク、BXなどを所有しているらしい。

例によってフランス語と英語と日本語がちゃんぽんになりながら、お互い興奮気味に今回のイベントの感想を熱く語っていると、なんとか通じてしまうからマニアというものは本当に恐ろしい……。

こうしてミュジーさんのドライブでC6は定刻前に無事、空港に到着。僕のシトロエンにまつわる、ポーランドとフランスという2つの国を駆け抜ける旅は、彼の極上のC6が締めくくってくれたのだった。

なかなかに忙しいスケジューリングだったし、当然何もかも自腹だから旅費の捻出は正直大変だったけど、おかげでたくさんのエグザンティアとシトロエンに関わる人とのつながりを持つことができた。様々な形でこの旅をサポートしてくれたすべての人々に、心より感謝したい。

なお、すっかりクルマにまつわる旅に味をしめた僕は、2024年、さらなる濃く深い世界を求め、もっとハードなプランを立ててふたたび機上の人となった。この新たなる旅については、また機会を改めてご紹介したいと思う。

■CITROEN XANTIA V-SX

シトロエン・エグザンティアV-SX

購入価格 7万円(板金を含む2023年5月時点までの支払い総額は238万922円)

導入時期 2021年6月

走行距離 17万4088km(購入時15万8970km)

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

協力=ACTIVA CLUB

(ENGINE WEBオリジナル)