名手が描く幽霊と触れあうホラーを堪能 お盆の読書にオススメの3冊

AI要約

ホラー小説『死者は嘘をつかない』の邦訳が文春文庫から発売された。主人公の能力を活かして人々を助ける少年が描かれ、サスペンス満点のストーリー展開が読者を引き込む。

スティーヴン・キングの作品らしく、不気味なルールやショッキングな展開が織り交ぜられており、ホラーとエンターテイメントの両面を楽しめる作品となっている。

幽霊を題材にした青春ホラーであり、キングの独自の筆致とストーリーテリングで幅広い読者に楽しめる内容となっている。

名手が描く幽霊と触れあうホラーを堪能 お盆の読書にオススメの3冊

 夏といえばホラーや怪談。この時期に怖い話が好まれるのは、先祖の霊があの世から帰ってくるお盆と関係があるとも言われている。幽霊ばなしは娯楽であると同時に、死者の魂を慰め、鎮める意味合いも含んでいるのだ。夏休み最初のホラー時評では、ずばり「幽霊」を描いたホラーを紹介する。(文・朝宮運河)

 ホラーの巨匠、スティーヴン・キングの長編『死者は嘘をつかない』が邦訳された。文春文庫のオリジナル長編として土屋晃が訳した。主人公ジェイミーは死者の姿が見え、言葉を交わすことができる少年。怖い目に遭うことも多いが、その特殊な力はまんざら役に立たないわけでもない。たとえばご近所の奥さんが亡くなった際、消えてしまった結婚指輪のありかを“本人”に尋ねたり、担当する人気作家が急逝して途方に暮れていたジェイミーの母(シングルマザーで文芸エージェントをしている)のために、未完の小説のプロットを聞き出したり。ところがある事件の捜査に協力したことから、彼の運命は大きく動き始める。

 人とは異なる能力を備えたティーンエイジャーといえば、過去のキング作品『シャイニング』や『ファイアスターター』が思い浮かぶが、本書は恐怖や絶望感に満ちた剛速球というよりは、楽しみながら放ったスローカーブといった趣。厄介な能力とそれなりに共存しながら、現代っ子らしい青春を送るジェイミーの姿が、味わい深く描かれていて引き込まれる。

 幽霊が見える主人公自体は決して珍しいものではないが、本書はそこに“死者は嘘をつかない”という独自のルールを盛りこむことで、絶妙なサスペンスを生み出してみせる。このあたりのさじ加減はさすがにキング。ジェイミーがくり返し述べる「これはホラーストーリーだ」という不気味な言葉の真意が分かった瞬間、読者は言いようのないショックに打たれることだろう。喜寿を目前に控えていよいよ円熟味を増す、キングの筆力をあらためて実感できるエンタメホラーの良作だ。