「ゴッホ」から来年で40年 芸術家が「生き延びることとは何か」というテーマに取り組む人生論

AI要約

AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、美術家が「生き延びるとは何か」というテーマに取り組んだ『生き延びるために 芸術は必要か』について紹介。

森村泰昌さんが自身のセルフポートレイト手法の写真作品から「生き延びるために芸術は必要か」という問いに取り組む心境と思いが込められた背景を語る。

本書は森村さんの建物の介護から始まり、美術家としての心構えや詩的想像力についての考察を含む講義の内容が紹介されている。

「ゴッホ」から来年で40年 芸術家が「生き延びることとは何か」というテーマに取り組む人生論

 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 自然災害、環境破壊、戦争、AIの発達、パンデミック──現代社会は「生き延びる」ことの困難を感じる出来事に満ちており、美術もその影響下にある。セルフポートレイトの手法で作品を制作し、「私」の意味を追求してきた美術家が、「生き延びるとは何か」というテーマに取り組んだ、モリムラ式人生論ノートとなった『生き延びるために 芸術は必要か』。著者である森村泰昌さんに同書にかける思いを聞いた。

*  *  *

 自身がゴッホやマリリン・モンロー、三島由紀夫になるセルフポートレイト手法の写真作品を制作してきた森村泰昌さん(73)。文筆家としても多くの本を書いてきた森村さんの最新刊が『生き延びるために芸術は必要か』だ。

「これまでの本は自分の作品や、関連する美術作品について書いてきたんですね。今回は少し違って、芸術をどう捉えたらいいのかという、自分にとっての心構えを考えてみたいと思いました。実は『肖像(ゴッホ)』を発表してから、来年で40年になるんですよ。節目を前に少し立ち止まって、これからの自分がどう進むのかについて、考えてみたかったんです」

 本書は森村さんの実家をめぐる「建物の介護」の話から始まる。近年は古民家再生プロジェクトも話題だが、森村さんは「有効活用」という言葉に引っかかりを覚えた。

「役にたたないものはあってはいけないという、嫌な感じがしたんです。有効であることが当然だと言う発想には、詩的想像力が欠けているんじゃないでしょうか」

 本書は「第一話 生き延びるのはだれか」と、第四話から第六話までが、ある大学で続けてきた講義をもとにまとめたもの。他に開講予定の講義ノートを先取りする形で書き下ろした文章、美術館での講演をもとにしたものが入っている。ゴヤ、ベラスケスといった画家が、いかに彼らの時代を生き延びたのか。権力者との複雑な関係についての考察は、美術家ならではの読み解きがスリリングだ。