「ビッグバン」の前に何が起きていたのか教えよう…「宇宙の起源」のナゾを解く新理論の「スゴすぎる中身」

AI要約

宇宙論の進化について、相対性理論と量子論の貢献を挙げながら説明。

ビッグバン理論の限界と、その後に提唱されたインフレーション理論の必要性について触れる。

物理学の発展と共に宇宙の謎が解明され、科学的アプローチが宇宙論にもたらす価値について考察。

「ビッグバン」の前に何が起きていたのか教えよう…「宇宙の起源」のナゾを解く新理論の「スゴすぎる中身」

宇宙はどのように始まったのか――

これまで多くの物理学者たちが挑んできた難問だ。火の玉から始まったとするビッグバン理論が有名だが、未だよくわかっていない点も多い。

そこで提唱されたのが「インフレーション理論」である。本連載では、インフレーション理論の世界的権威が、そのエッセンスをわかりやすく解説。宇宙創生の秘密に迫る、物理学の叡智をご紹介する。

*本記事は、佐藤勝彦著『インフレーション宇宙論 ビッグバンの前に何が起こったのか』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

――私たちの住んでいるこの宇宙には、「はじまり」があったのだろうか? もし「はじまり」があったのなら、それはどのようなものだったのか?――

これらは、人類の歴史が始まった頃から問われつづけている疑問です。かつては、これらの疑問に答えられるのは宗教や哲学しかないと考えられていました。あまりにも雲をつかむような話なので、科学では太刀打ちできないとされていたのです。

しかし、いま、「科学の言葉」でこれらの疑問に答えることができる時代になってきています。宇宙の誕生や進化・構造について研究する学問分野である「宇宙論」が、この100年ほどの間に驚くほどの進歩を遂げたからです。

たかだか百数十年前、人間にとって宇宙とは、私たちが住む天の川銀河がすべてでした。人間が観測できる宇宙が、そこまでだったのです。しかし今世紀のはじめ、観測技術の爆発的進歩により、宇宙は少なくとも400億光年の大きさまで広がっていて、そこには無数の銀河が存在し、天の川銀河はその一つにすぎないことを私たちは知っています。そして、この宇宙はビッグバンと呼ばれる「火の玉」から始まったことまで、私たちは知ることができました。

ただ、このような宇宙についての知の広がりに貢献したのは、観測だけではありません。むしろ観測より先に、「宇宙はこうなっているのではないか」と予想する理論があり、それが観測によって証明されることで、宇宙論は発展してきました。

20世紀初頭にアインシュタインによってつくられた、時間や空間を考える相対性理論、また、同じくこの時期にボーア、ハイゼンベルグ、シュレディンガーらによりつくられた、ミクロの世界を記述する量子論。これらは現代の物理学を支える2本の柱ですが、宇宙論もまた、この2つの理論が確立されたことで、飛躍的な進歩を遂げたのです。

とりつくしまもないような宇宙のさまざまなナゾが、物理学の理論によって解き明かせるようになったことを、私も物理学者の一人として大いに誇りに思っています。

いまや有名になったビッグバン理論も相対性理論と量子論をもとに築かれたものですが、137億年も前の宇宙誕生のシナリオが理論によって予言され、それがのちに観測事実によって証明されるというのは本当に驚くべきことで、すばらしいことだと思います。

しかし、やがて研究が進むにつれ、ビッグバン理論だけでは宇宙創生について十分に説明しきれないことがわかってきました。たとえばビッグバン理論では、宇宙がなぜ「火の玉」から始まったかについては、答えることができません。また、ビッグバン理論を推し進めていくと、宇宙の究極のはじまりは「特異点」という、物理学の法則がまったく破綻した点であったと考えざるをえなくなります。いわば宇宙には物理学が及ばない「神の領域」があることを認めざるをえないわけで、これは物理学に携わる者として容易にはうけいれがたいことです。