【初夏が抜群に気持ちがいい穴場】伊豆特有の森に包まれた通称 “天城の瞳”「八丁池ハイキングルート」って知ってる?

AI要約

梅雨明けの前後に森を歩くのは、気温が高くリフレッシュできる理想的な環境である。身体の最終チェックとして最適。

天城峠から八丁池に至る伊豆の森は初夏が心地よく、神秘的で風光明媚な場所である。

天城峠周辺には川端康成ゆかりの地や温泉もあり、観光やハイキングの拠点としても魅力的。

【初夏が抜群に気持ちがいい穴場】伊豆特有の森に包まれた通称 “天城の瞳”「八丁池ハイキングルート」って知ってる?

 梅雨明けの前後は、決まって森を歩きに出かける。標高の低い歩き出しは気温が高いから汗をかくのにいい環境だし、高度を上げるにつれて風の涼しさでリフレッシュもできる。夏山に向けて調整してきた身体の最終チェックとしては、そんな山行がちょうどいい。

 たとえば、ぼくの場合は長大な尾根と沢が素晴らしい奥多摩や奥秩父、起伏に富んだ複雑な地形の山が多い北関東、そして森と海に囲まれた伊豆半島あたりの森が候補となる。なかでも、天城峠から八丁池にかけて広がる伊豆特有の森は初夏が気持ちよく、折に触れて足を運んでいる。

 天城山の西にある八丁池は、標高1,170m付近の森の中に突如として現れる山上の池だ。別名を「天城の瞳」とか「伊豆の瞳」と呼ばれるだけあって、なんだかやさしい雰囲気に包まれた神秘的な場所。標高が比較的高く、東西にあたたかい海があること、さらに風が強く吹き抜ける台地のような地形ゆえに、水面はさざ波でよく揺れている。

 すぐ近くには展望台があり、ここからの眺めは抜群である。眼下に八丁池がなみなみと水を湛え、上空の白い雲を水面に映す。雲が湧きたつと気がつきにくいけれど、その向こうには富士山の姿もチラリ。こういうところが伊豆らしい。

 直射日光を浴びればもちろん暑いものの、木陰に入って風にあたるのは最高に気持ちがいい。鬱蒼とした森は土や樹木の匂いに満ちている。さまざまな自然からのシグナルをたっぷり全身で受けとめて、日ごろのストレスで鈍化した五感を呼び覚ますのだ。

 八丁池に向かうコースはいくつかある。もっともポピュラーなのは、天城峠から上り、御幸歩道で向かう道のり。ここは昭和天皇が八丁池を目指して歩いた道で、ブナやヒメシャラといった伊豆らしい植生を楽しめる森が素晴らしい。

 あたたかい黒潮の海が近いだけあり、霧や雨の多さからなのか、立派なコケが育まれているのも見どころ。ここのところは、西日本に分布するクマゼミが増えつつあるそう。山頂のないルートだからこそ、「植物が豊かな登山道で木花や野鳥などを観察する」といったテーマ探究型の山歩きをしてみるのも楽しい。

 テーマといえば、川端康成もそのひとつになり得るだろう。天城峠は『伊豆の踊子』の舞台でもあり、ハイカーのみならず観光客も訪れる物語の聖地。旧天城峠は基本としておさえたいし、そこに向かう林道には「伊豆の踊子文学碑」がある。そのまま進めば旧天城トンネルもある。

 現在は国道414号の完成によって南北縦断が便利になったけれど、この旧道もまだ実際に使えるため、ハイカーだけでなく自転車やバイクなどの旅人とすれ違うことも多い。トンネルの雰囲気を味わいたいなら、ここだけを目的に訪れるのもありだ。

 天城峠の北には、川端康成が愛したという湯ヶ島温泉がある。旅館はもちろん日帰り入浴施設などがあるので、ここを拠点に天城峠の周辺を訪ねるのも、いい夏の過ごし方だと思うのだ。

 ちなみに、川端康成が『伊豆の踊子』を執筆したのは湯本館。書き物をする身としては、一度は泊まってみたい宿である。

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大内 征(おおうち せい)

低山トラベラー/山旅文筆家

土地の歴史や物語を辿って各地の低山を歩き、自然の営み・人の営みに触れながら日本のローカルの魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の面白さとトレイルを歩く楽しみ方について、文筆と写真と小話で伝えている。

2016年よりNHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」に毎月レギュラー出演中。2022年よりLuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」のパーソナリティを担当している。NHKBSプレミアム「にっぽん百名山」では雲取山と王岳・鬼ヶ岳の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』、『とっておき!低山トラベル』(ともに二見書房)、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。

現在、テレビやラジオ番組のゲスト出演、雑誌やウェブマガジンの寄稿、登山講座の講師、地方自治体のプロジェクト参画など、低山に精通する第一人者として精力的に活動中。NPO法人日本トレッキング協会常任理事。宮城県出身。

@sei_ouchi