全国粒子線施設で治療件数8年連続トップ サガハイマットが開院10周年 医療保険適用も広がり患者数増

AI要約

九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)が開院10周年を迎え、治療件数がトップであることが記念された。

重粒子線がん治療は、薬物治療や外科手術に比べて副作用や負担が少ない特長があり、治療効果が高い。

今後の課題としては、治療室の不足や次世代型加速器の導入が必要とされており、さらなる発展が求められている。

全国粒子線施設で治療件数8年連続トップ サガハイマットが開院10周年 医療保険適用も広がり患者数増

 九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)が開院10周年の記念式典を6月下旬に開いた。2013年6月の開院から今年6月末までに9千人を超える患者を治療し、全国で26ある粒子線施設の中で治療件数は8年連続でトップ。公的医療保険の適用も広がり患者数は増加している。センターを運営する佐賀国際重粒子線がん治療財団の外須美夫理事長に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。

 -重粒子線がん治療の特徴は。

 「がん治療の柱である薬物治療は副作用の心配がある。外科治療には体の負担が小さい内視鏡手術などの発展もあるが、手術による体へのダメージは避けられない」

 「放射線の一種である重粒子線は、がん細胞の殺傷効果が高い。治療ではがん病巣でエネルギーのピークを迎えるように照射でき、その前後は弱く抑えられる。がん治療に伴う痛みやつらさ、苦しさなどが圧倒的に少ないはずだ。患者本人が気づかぬうちにがん細胞は死ぬ。治療時間も短く、患者の肉体的、精神的な負担が小さいのが特徴だ」

 -開院当時、先進医療として治療が始まった後、公的保険の適用が広がった。

 「全国の粒子線がん治療施設と共に実績を重ね、治療効果の高さを証明していった結果、公的保険が適用されるようになった。16年の骨軟部腫瘍に始まり、前立腺がん、頭頸部悪性腫瘍などに広がり、6月からは早期の肺がんなども適用となった。公的保険が適用されるかどうかは患者が治療を選択する際に大きな線引きとなる。今は適用外となっている食道がんなども、しっかり実績を出していきたい」

 「私たちが手を出せない領域もある。例えば白血病のような血液のがんや、広範な転移のあるがんは重粒子線で治療できない。薬物治療や外科治療とすみ分けする必要がある」

 -治療実績は。

 「順調に伸びている。当初は年間500~600人程度だったが、昨年度は1263人。公的保険の適用が広がった影響が大きいし、私たちの宣伝や広報の努力の効果もある。治療件数は陽子線も含め、全国の粒子線がん治療施設の中でトップ。交通の便が良いことから、九州一円と中国地方、四国地方から患者が集まり、西日本のがん治療の拠点になるという開設時の思いを実現しつつある。少数だが中国や台湾、韓国など海外からも受け入れている」

 -課題は。

 「患者数が順調に伸びる一方で治療室は3部屋しかなく、受け入れられる患者数は単純計算でも年間1300人ほどが限界だ。現場は今できることをぎりぎりでやっている。安全第一で職員の過重負担にならないよう注意しながら、どこまで対応できるのか考えたい。治療に用いる加速器は30年間稼働できるといわれているが、次世代型の導入もこの先の視野に入れていかねばならないと思う」

 -今後、力を入れる取り組みは。

 「報告書の作成などを重視して記念式典を今年開いたが、センターは開院から12年目に入った。患者数が伸びたのは、九州の医療機関に重粒子線がん治療への理解があり、治療の選択肢として重粒子線を挙げて患者にセンターを紹介してくれるからだ。より連携を深めたい」

 「今年は初めて、佐賀市の高校の協力を得て、センター名を記した熱気球を大会で飛ばす予定だ。さまざまな機会を捉えて啓発していきたい」 (聞き手は鶴加寿子)

 ■■九州国際重粒子線がん治療センター■■ 佐賀県鳥栖市の九州新幹線新鳥栖駅前に2013年6月に開院したがん放射線治療施設。光速の約70%に加速した炭素イオンをがん病巣に狙いを絞って照射する。エックス線より、がん細胞の殺傷効果が高く、体外からピンポイントで当てるため、周りの正常な細胞へのダメージが少ない。1回の照射時間は1~5分程度で済み、全て通院で治療する。佐賀県と同県医師会が設立した佐賀国際重粒子線がん治療財団が運営する。