1億円の現金と有価証券をめぐって兄弟3人が大ゲンカ……実際にあった「骨肉の争続」の末路

AI要約

相続問題は富裕層だけでなく庶民にも起こりうる。兄弟間での遺産分割協議がトラブルに発展する事例が紹介されている。

3人兄弟が父親の遺産相続で大ゲンカ。財産の分配に関して意見が対立し、最終的にもめごとは解決するものの、各自に不満が残る。

家族間の金銭問題は感情が絡みやすく、遺産相続でも表面上の関係が崩れることがある。

1億円の現金と有価証券をめぐって兄弟3人が大ゲンカ……実際にあった「骨肉の争続」の末路

「正直に申し上げると、“争続”は富裕層だけの問題ではありません。むしろ多額の財産を持っていない親族間でも、相続できる遺産があるとなれば争いになりかねません。

たとえば、父親の死に際し、仲の良い兄弟なので遺言書がなくても特にもめないと長男は思っていたところ、次男が『兄は父の介護を一切していないのに、俺と同じだけもらうのは許せない!』などとトラブルになるケースはよく聞きますね」(前出の松嶋氏)

相続人同士、表面的には仲が悪くなくとも、些細なことで大騒動に発展する。アーレス・ファミリーオフィス取締役で相続終活専門協会代表理事の貞方大輔氏は、こんな骨肉の争いを目の当たりにした。

●遺言なき遺産分割協議で、兄弟3人が大ゲンカ

母親はすでに他界しており、このたび父親(85歳)が亡くなった。相続人は長男(58歳)、長女(55歳)、次男(52歳)。長男は父親の会社に入って、経営をしている。

残された財産は父が経営していた会社の株、自宅の不動産、区分所有のマンション、現金と有価証券、すべて合わせて2億円ほどだ。

長女は一度結婚したが、離婚して自宅で父親と同居。次男は収入が少ないが、父が買ったマンションに住んでいるため、なんとか生活は維持できている。兄弟仲は良くも悪くもなく、3人による遺産分割協議で、次のことはすんなり決まった。

自宅(評価額4000万円)は長女が引き継ぎ、長男は父親が経営していた会社の株(評価額3000万円)を、次男は住んでいた父親のマンション(評価額3000万円)を相続する。

残る現金と投資していた有価証券、合わせて約1億円をどう配分するかについては、長女が「もめるのはイヤだから、3等分するのがいいと思う」と提案した。

すると、男兄弟から異議が出た。

次男は「父さんは以前、『長男は会社を継ぐ。会社は今後も価値が高まるから、おカネは長女とお前がもらえ』と言っていた。そのメモもある」と主張する。

一方の長男は、「そんなメモなんか遺言じゃない! 会社を俺が引き継ぐのは、お前らに経営能力がないからだ。今の会社は俺がいたから維持できている。貢献度を考えれば、より多くもらいたい」と言い出した。

次男が「いや、俺だって会社の経営に参加したかったが病気がちでできなかった。仕方ない」と言い返せば、「俺は前の会社で出世の道が開けていたのに、オヤジに呼ばれて今の会社に入った。むしろ犠牲者だ。お前は稼ぎが少ないのに、オヤジが買ったマンションのお陰で暮らせている。それだけで充分だ」と、昔に遡って大ゲンカだ。

それを見ていた長女は「実の兄弟なんだから、そこまで言わないで。家族よりもおカネがそんなに大事なの? こんなところを見たらお父さんも悲しむじゃない!」と、必死に止めようとした……しかし、長女は自分の取り分を減らしても良いとは、決して口にしない。

議論は平行線を辿り、このままでは相続税の申告期限(10ヵ月)に間に合わない。そこで、1億円の現金と金融資産は、長男4000万円、長女と次男が3000万円と分けることで決着した。長男が引き継ぐ自社株を現金化するのは現実的でなかったためだ。

だが、3人とも最後まで納得してはおらず、「自分が折れてやったんだ」とそれぞれにしこりが残る結果となった。

後編『父の口座から次女が1500万円を勝手に引き出したことを暴いたのは税務署だった……本当にあった「骨肉の争続」』ヘ続く。

「週刊現代」2024年6月29日・7月6日号より