「撃鉄を引く 暗夜に霜の 降りるごと」…75歳元警察官、墨書の句集ににじむ世界観

AI要約

福岡県宮若市出身の元県警警察官・川崎伸治さんが、俳句と書道を愛し、212句を選び句集「俳句二百余」を自費出版した。

自然をテーマにした句を心がけ、句友らからは作者の世界観がにじみ出ていると賛辞を受けている。

警察官としての経験を投影した句もあり、俳句と書を通じて成長を実感している川崎さんは、今後も学び続ける意欲を示している。

 書道と俳句をたしなむ福岡県宮若市出身の元県警警察官・川崎伸治さん(75)(福岡市)が、これまで詠んだ句から212句を選び毛筆でしたためた句集「俳句二百余」を自費出版した。「古希を過ぎ、人生の集大成のつもりで、俳句を書で表現することに挑戦した」と話す川崎さんに、句友らは「墨書の句集は珍しい。作者の世界観がにじみ出ている」と賛辞を送っている。(興膳邦央)

 川崎さんが書道を始めたのは小学2年の夏休み。炭鉱会社に勤めながら、自宅で近所の小学生にボランティアで書道とそろばんを教えていた父親に手ほどきを受けた。警察官になると捜査本部の看板の墨書などを依頼されるようになり、郷里で旧宮田署に勤務した時には、管内の公民館の看板も手がけた。

 俳句は定年を控えた50歳代後半に、同じ筑豊出身の同僚警察官の誘いで始めた。自筆の年賀状と暑中見舞いを欠かさない川崎さんは、「自句で季節のあいさつをしたいと思った」と振り返る。現在は池田幸利さん(83)(芦屋町)が主宰する「浜木綿」など三つの句会に参加し、研さんを重ねている。

 「たんぽぽの わたを飛ばして また明日」

 「道草や 藁塚にかくるる ランドセル」

 句集の句は、自然体で詠むことを心がけているという川崎さんが自分らしさを追求しようと1ページに1句ずつ、筆を執って仕上げた。

 その幾つかに、池田さんは講評を寄せた。「雀の子 治にいて乱を 怠らず」へは、「乱世への準備を怠るな」という意味の孔子の言葉を引き、巣立って間もないスズメに「周囲を確かめて動け」と呼びかけていると解説し、「作者のやさしい眼差しを思う」と評した。

 川崎さんが警察官人生を詠んだ句で気に入っているのは「撃鉄を引く 暗夜に霜の 降りるごと」。撃鉄は夜間に霜が降りるように静かに引け、という教官の指導を振り返った句で、緊張感を持って全てに相対していた現職時を思い起こすという。

 川崎さんは75部を出版し、友人らに配った。俳句に誘ってくれた元同僚警察官の音頭で、句友が「墨書の句に平安時代の歌を読んだ感覚」「感性に圧倒された」などと感想をつづった文集を作ってくれた。文集で「春闌くや 墨痕二百句 掌に重し」と詠んだ池田さんは、「これからも今のまま、眼差しの優しい川崎さんでいてほしい」と語る。

 川崎さんは「句集を作ってみて、書も俳句もまだまだ途上だとわかった。勉強させてもらうという気持ちを大切に、これからの人生で色んなことを吸収していきたい」と話している。