「SLS」ロケット開発でボーイングに品質管理の「重大な問題」–アルテミス計画に遅れもたらす

AI要約

NASAの監察総監室は、SLSロケットの次期バージョン開発においてBoeingに品質管理作業の改善を指示している。

SLSはArtemis計画に利用され、Artemisによる月面ミッションの遅延が懸念されている。

OIG報告書では、Boeingの財務管理や作業指示の不備が示唆され、開発スケジュールの延長とコスト増加が懸念されている。

「SLS」ロケット開発でボーイングに品質管理の「重大な問題」–アルテミス計画に遅れもたらす

米航空宇宙局(NASA)の監察総監室(Office of Inspector General:OIG)は、「Space Launch System(SLS)」ロケットの次期バージョンの開発に関して、米Boeingに品質管理作業の改善を指示している。

 SLSは人類を再び月面に立たせる「Artemis」計画に利用されるロケットだ。2022年11月には、無人の宇宙船「Orion」を月の周回軌道に乗せ、地球に帰還させるミッション「Artemis I」を打ち上げた。

 OIGの指摘によれば、アップグレードされたSLSに重大な品質管理上の問題が存在しており、コストの超過と遅延が予測されているという。これにより、Artemisによる月面ミッションの遅延につながる可能性が高いという。

 米国時間8月8日に発表されたOIGの報告書(PDF)は、SLSの次期バージョンである「Block 1B」と「探査用上段ステージ(Exploration Upper Stage:EUS)」に焦点をあてている。アップグレードされたBlock 1Bは2028年9月の打ち上げが予定されている「Artemis IV」で使用される予定だ。

 Artemis IVで使用されるBlock 1Bは、月に輸送される貨物(ペイロード)の量を増やすように設計されている。このアップグレードで重要なのは、BoeingがEUSを開発することという。EUSが完成すれば、SLSの輸送能力は、Artemis Iで使用された「Block 1」の27tからBlock 1Bの38tと40%向上することになる。

 Block 1Bは2014年から開発が進められており、Block 1Bの初飛行はもともと「Artemis II」(当初予定では2024年11月だったが、2025年9月に延期されている)だったが、Artemis IVに変更された。開発スケジュールが延長され、コストも増加したという。BoeingのEUS契約は、2025年までに9億6200万ドルから20億ドル以上に脹れ上がり、Block 1B全体のコスト増の一因にもなっている。

 OIGは、NASAの本部やマーシャル宇宙飛行センター、Boeingなどの各組織の関係者を面談。NASAと契約した企業のコストと予算などの文書、SLSの各要素の契約、契約の義務と支出、Boeingの財務管理書類などを検討したという。

 そうした調査、検討から、製造を担当するBoeingに「十分な訓練を受けた経験豊富な航空宇宙産業の労働者がいない」と指摘。こうした問題に対してBoeingは「従業員に訓練と作業指示を提供している」が、報告書では「取り組みは不十分」と指摘している。

 「SLSコアステージ3の重要部品である液体酸素燃料タンクの溶接部分がNASAの仕様に適合していなかった」と明らかにしている。

 「NASA関係者によると、溶接の問題はBoeingの経験の浅い技術者と、不十分な作業指示計画と監督によって生じた。訓練を受けた有資格の作業員がいないため、BoeingがNASAの要求や業界標準に準拠しない部品やコンポーネントを製造し続けるリスクが高まる」

 こうしたことを背景に2028年の打ち上げ予定までにコストは約57億ドルに達すると予測している。NASAがみていた50億ドルを7億ドルも上回ることになる。

 「EUSの開発はこのコストの半分以上を占め、2017年の初期コスト9億6200万ドルから2028年まで約28億ドルに増加すると見積もっている」。他の要因とあわせると、2028年9月のArtemis IVの打ち上げ日も延期される可能性を示唆しているという。