気候変動対策に挑む注目のクリーンテック企業【アグリ、フードテック、素材、循環資源編】

AI要約

気候変動問題への世界的な危機感が高まっている。2023年にドバイで開かれた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前の1.5度に抑えるという、2015年の「パリ協定」で採択された目標を達成するため、2025年までの温室効果ガス(GHG)排出量のピークアウトや再生可能エネルギー(再エネ)発電容量の増加、CO2除去や水素などを含むゼロ・低排出技術の加速などが明記された。

クリーンテック業界の発展に貢献する組織「Cleantech Group」は、持続可能な成長を促進するイノベーションに焦点を当てた、調査、コンサルティング、イベント運営を行う企業として2002年にアメリカを拠点に設立された。同社は2009年から毎年、世界で最も有望なクリーンテック領域のスタートアップ100社を社内外の有識者による選定のもと、Global Cleantech(GCT) 100として発表しており、世界中のクリーンテック投資家から注目されている。

2024年は、世界147カ国の2万8000社の中から、21カ国100社のスタートアップが選出された。

気候変動対策に挑む注目のクリーンテック企業【アグリ、フードテック、素材、循環資源編】

 気候変動問題への世界的な危機感が高まっている。2023年にドバイで開かれた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前の1.5度に抑えるという、2015年の「パリ協定」で採択された目標を達成するため、2025年までの温室効果ガス(GHG)排出量のピークアウトや再生可能エネルギー(再エネ)発電容量の増加、CO2除去や水素などを含むゼロ・低排出技術の加速などが明記された。気候変動問題への社会的、経済的な取り組みが重要視されており、環境への負荷を低減させる製品やサービス、プロセス、技術などを指す「クリーンテック」へ注目が集まっている。 

 クリーンテック業界の発展に貢献する組織「Cleantech Group」は、持続可能な成長を促進するイノベーションに焦点を当てた、調査、コンサルティング、イベント運営を行う企業として2002年にアメリカを拠点に設立された。同社は2009年から毎年、世界で最も有望なクリーンテック領域のスタートアップ100社を社内外の有識者による選定のもと、Global Cleantech(GCT) 100として発表しており、世界中のクリーンテック投資家から注目されている。

 15年目を迎えた2024年は、世界147カ国の2万8000社の中から、21カ国100社のスタートアップが選出された。

 本稿の著者が所属するケップルでは、独自のスタートアップデータベース「KEPPLE DB」を提供しており、日々さまざまな注目領域のスタートアップ情報に関する調査レポートをカオスマップとともに公開している。このたび、GCT100の選出企業に加え、類似する国内のクリーンテック関連企業を調査し、カオスマップを作成した。 

 「気候変動対策に挑む注目のクリーンテック企業【エネルギー編】」の記事では、世界や日本のクリーンテック市場のトレンドに加え、エネルギー分野におけるGCP100選出企業や、同様の事業を展開する日本国内のスタートアップを掲載している。後編である本編では、アグリ・フードテック、素材、循環資源、その他のカテゴリーにおけるクリーンテック企業を紹介する。 

アグリ・フードテック

 農業や食料分野におけるクリーンテック企業を、2つの小カテゴリーに分け紹介していく。 

アグリテック

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を4社、国内企業を5社分類している。

 アグリテックの世界市場規模は、2022年に221億米ドルと評価され、2032年には759億米ドルに達すると予想されている。農業を含む食料システムから排出されるCO2は、排出される総CO2量の21~37%を占めるとされ、クリーンテックの貢献が期待される分野である。一般的にアグリテックというと、農業の省人化や生産性の向上を目的とした技術が該当するが、クリーンテックにおいては、環境負荷を低減させつつ土壌を改良し収穫率を上げるような技術などが選出されている。

 例えば、オーストラリア発のLoam Bioは、微生物技術を活用し土壌に大気中のCO2を固定する仕組みを開発している。土壌改良や生産性向上も期待でき、農業からの排出量を削減する技術として注目されている。国内では、名古屋大学発のTOWINGが、高機能バイオ炭を開発し、土壌改良やCO2削減を実現する技術に結びつけている。

 農業が環境に与える負荷は大きく、人口増加に伴い生産性や収穫率向上を目的とした農薬や肥料の過剰投与が行われたことにより、大気汚染や水質汚染、土壌汚染といった環境問題が引き起こされた。こうした課題を解決する技術として、アメリカ発のVestaronは、従来の化学合成農薬に変わる安全性が高いペプチドを用いた農薬を開発している。また国内企業では、EF Polymerが土壌の水分の吸水力が向上する超吸収性ポリマーの開発を行っており、40%の節水と20%の肥料を節約できるとしている。同社は、アジア太平洋地域に特化したクリーンテックリストである「APAC Cleantech 25」で、2022年に選出された実績がある。 

アグリテック

フードテック

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を5社、国内企業を13社分類している。

 世界人口は2030年に85億人に達し、2050年には約100億人にまで増加すると推計されている。2050年の食料需要は2010年の約1.7倍になるとされ、特に畜産物と穀物の需要が高まり食糧不足が世界的な課題になると考えられる。一方では、生産された食品の約40%に相当する25億トンの食料が廃棄されているといった課題を抱えており、ロスを削減し安定した食料供給を行う仕組みが求められている。こうした中、2024 GCT100では、代替肉や代替魚を開発する企業やフードロス削減に取り組む企業が選出されている。 

 代替肉の世界市場規模は、2024年に約103億米ドルと評価され、2029年まで年平均成長率(CAGR)8.6%で推移すると予想されている。2024 GCT100によると、2023年に代替プロテイン製品に行われた資金供給は10億3000万米ドルにのぼるとされている。過剰な食肉生産は、動物福祉や環境の問題から非難にさらされており、持続可能ではないと考えられるようになった。動物由来食品の摂取を控える動きもあり、新たなたんぱく源として代替肉や昆虫食へ注目が集まっている。

 2024 GCT100では、オランダ発のMosa Meatが細胞から作られる代替肉の開発で注目されている。同社は、2023年に培養肉分野では初となる「B Corp認証」(社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度)を取得している。この他には、精密発酵技術による、ヘムタンパク質の開発を行うベルギー発のPaleoや、細胞培養によるサーモンを開発するアメリカ発のWild Typeが選出されている。培養魚は海洋環境で問題となっているマイクロプラスチックの汚染リスクが少ないといった点も注目されている。

 国内でも、肉をはじめとしたタンパク源の代用となるさまざまな製品が開発されており、代表的な例では、大豆ミートを開発するDAIZ、高タンパク源であるカイコを活用したバイオ原料を開発するMorusなどがある。

 また本カテゴリーでは、ソフトウェア関連の企業も選出されている。デンマーク発のToo Good To Goは、売れ残り食品とユーザーをつなぐ食品ロスのマッチングアプリを構築している。フードロスは、食品を無駄にするだけでなく、生産工程の浪費やゴミの増加につながるなど悪循環を生んでおり、特に先進国を中心に取り組まなければならない課題となっている。Too Good To Goでは、飲食店が通常であれば廃棄する食品を箱に詰め、割引価格で販売する仕組みを構築しており、ユーザーはオンラインで購入し店頭でピックアップする。国内では、ロスゼロが賞味期限間近な食品のロス削減に貢献する「ロスゼロ不定期便」の運営を行っている。

素材

 素材分野におけるクリーンテック企業を、7つの小カテゴリーに分け紹介していく。

CO2分離回収

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を3社、国内企業を5社分類している。

 CO2分離回収技術とは、火力などの発電所や工場から排出されるCO2を他の物質と分離し、回収する技術を指す。鉄鋼やセメント、建設などCO2排出削減が困難な産業がカーボンニュートラルを実現するために必要な技術とされている。市場規模は2023年に68億米ドルを超え、2032年には354億米ドルに達すると予想されている。

 2024 GCT100では、セメントや製油所、鉄鋼産業向けにCO2回収を行うイギリス発のCarbon Cleanが選出されている。同社の技術では、既存の設備にCO2回収装置を設置することで分離、回収を行うことができるため、改修や新たな設備建設をする必要がなく低コストで導入が可能となる。同社へは、石油企業のChevronや丸紅などが出資を行っている。国内企業では、ルネッサンス・エナジー・リサーチがCO2選択透過膜の開発を行い、発電所の排気ガスからCO2を回収する仕組みや、大気中から直接CO2を回収する技術である「DAC(Direct Air Capture)」の実用化に向けた研究を行っている。またCO2回収には、溶剤による化学反応や特殊フィルターを活用する方法があるが、ノベルジェンのように微細藻類を活用したCO2回収技術の開発に取り組む企業もあり、多様な選択肢が模索されている。

CO2活用

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を6社、国内企業を3社分類している。

 CO2活用は、CO2を資源として捉え、素材や燃料に再利用することで性能を高め、大気中へのCO2排出を抑制できる仕組みとして注目されている。2024 GCT100では、自動車や建設、アパレル業界向けに再生CO2からポリマー製造を行う触媒を開発するイギリス発のEconic Technologiesや、オックスフォード大学化学部からスピンアウトしたOxCCUなどが選出されている。OxCCUは、水から取り出した水素とCO2を結合させ燃料、化学物質、生分解性プラスチックを生産する技術を構築している。6月には1800万ポンドの資金調達を行い、同社の技術を活用した「SAF(持続可能な航空燃料)」の開発を促進すると発表した。国内企業では、京都大学発のSymbiobeが、発電所や工場から排出されるCO2を、光合成生物を活用し有機物に変換する技術で、バイオポリマーなどのバイオマテリアルの生産を行っている。

代替プラスチック

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を2社、国内企業を7社分類している。

 2021年に世界で生産されたプラスチックは3億9000万トンにのぼり、2050年には14億8000万トンまで増加すると予想されている。石油由来のプラスチックは安価で汎用性が高く、人々の生活の利便性を高める製品として世界中で急速に広がったが、近年では廃プラスチックによる環境汚染が大きな問題となっている。

 プラスチック製品の約44%が梱包材として使用されており、1カ月以内に廃棄される割合は40%にのぼるとされる。こうした廃プラスチックは焼却や埋め立てなどで処理されるが、約半数程度が自然環境に取り残され、目に見えない細かな粒子であるマイクロプラスチックとなる。分解されないため自然界に蓄積されてしまい、環境破壊や動植物、さらには人体への悪影響につながるとして懸念されている。こうした状況を受け、石油由来のプラスチック製品の代替となる、生分解性プラスチックやバイオプラスチックの開発が進んでいる。

 2024 GCT100では、生分解性廃棄物(植物や動物由来の廃棄物)を活用し生分解性プラスチックを開発するカナダ発のGenecisが選出されている。廃棄物を使用するため、製造過程でのCO2排出が少なく低コストでの生産が可能となる。生分解性プラスチックの世界市場規模は、2023年に79億米ドルと評価され、CAGR21.3%で推移し、2028年には209億米ドルになると予想されており、成長が見込まれる分野だが、既存のプラスチックに比べコストが高くなるという課題がある。Genecisのように、低コスト化に取り組むことが石油由来プラスチックからの置き換えを促進させる上で重要となっている。

 国内で生分解性プラスチックに取り組む企業としては、デンプンの発酵による乳酸が主成分の生分解性プラスチックと紙を原料とした製品開発を行うカミーノや、海洋生分解性樹脂の開発を行うネクアスが挙げられる。この他の国内企業では、食品残渣などのアップサイクルにより代替プラスチックの開発を行う企業が複数あり、例えば、さとうきびの搾りかすを活用し紙やバイオプラスチックを製造するCurelaboや、植物残渣を活用し食器やストローを開発するアミカテラ、食用として適さない米を活用したバイオマスプラスチックを開発するバイオマスレジンホールディングスがある。

低炭素セメント・ブロック

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を2社、国内企業を1社分類している。

 世界のCO2排出量の8%がセメント産業に起因すると言われている。セメントから作られるコンクリートは、世界中のあらゆる建造物、道路などで使用されているが、セメントの製造工程では、石灰岩や廃棄物などを高温で燃焼するため、CO2排出量が必然的に多くなってしまう。こうした現状を受け、セメントのCO2排出量削減を実現する低炭素セメントの需要が高まっている。2024 GCT100では、米国発のBrimstoneが選出されており、同社は炭素を含有する石灰岩を使用せず、炭素を含まないケイ酸カルシウム岩を使用したカーボンネガティブなセメント製造技術を構築している。

 国内では大林組や大成建設といった大手ゼネコンが低炭素セメントやコンクリートの開発を進めている他、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」の一環として鹿島建設などがカーボンネガティブコンクリートの開発を進めている。国内では低炭素セメントに取り組むスタートアップは見られないが、群馬大学発のグッドアイが、CO2削減に貢献する「GUDブロック」の開発を行っている。廃材となる木片から作ったウッドチップとセメントを混ぜ合わせた素材で、道路に敷き詰めることができ、木が光合成で蓄えたCO2を閉じ込め排出量削減に貢献できるという。

鉄鋼

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を4社、国内企業は該当無しとしている。国内では、日本製鉄やJFE、神戸製鋼といった大手鉄鋼会社が独自に脱炭素化に向けた開発を行っており、スタートアップによる取り組みは見られなかった。

 鉄鋼をはじめとした重工業は環境への影響が多大である一方、長い歴史の中で蓄積された方法から転換することが難しく、これまで脱炭素化への取り組みが不十分とされてきた分野である。スタートアップなど新しい発想による技術革新で、環境負荷を低減していく取り組みが求められている。

 鉄鋼が環境に与える問題は主に3つ挙げられ、1つ目はエネルギー原料の75%を石炭に依存しているため、CO2排出量が多く世界の排出量の約8%を占めることである。2つ目は鉱石から金属を取り出す際に大量の水を使用する点、3つ目は抽出後に残る物質(鉱さい)が環境汚染につながる点が挙げられる。人口増加や都市化の影響により、過去数十年で鉄鋼需要は拡大したが、2022年から2027年のCAGRは3.8%と予想されており、近年では需要が横ばいとなっている。石炭の代替となるエネルギー源の活用や水の使用を減らす技術の開発など、既存の仕組みの変革により脱炭素化を進めていくことが重要となる。

 2024 GCT100では、冒頭で挙げた米国発のBoston Metal(石炭を使用する仕組みを溶融酸化物電解に置き換える技術を構築)や、有害物質の発生をなくし水をほとんど使わない金属抽出法を開発するカナダ発のpH7 Technologiesなどが選出されている。また、採掘現場でリアルタイムに鉱石選別を行うセンサー技術を開発するカナダ発のMineSenseは、今回で7回目の選出となり、Global Cleantech 100 Hall of Fameへ殿堂入りすることとなった。同社の技術を活用することで、鉱山事業者は採掘の効率性や収益性を高めることができ、水やエネルギーの使用を削減することが可能となる。

リチウム抽出

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を3社分類し、国内企業は該当無しとしている。

 スマートフォンやEVに使用されるリチウムの需要は拡大しており、2023年の市場規模は約222億米ドルと評価され、CAGR22.1%で推移し、2032年には約1340億米ドルに達すると予想されている。リチウムの産地は、オーストラリア、中国、南米(チリ、アルゼンチン)に集中しており、安定供給の面でリスクがあるほか、産出過程で水質や土壌を汚染し水不足を招くといった課題がある。

 2024 GCT100では、こうした課題の解決に貢献する企業が選出されている。例えば、カナダ発のSummit Nanotechはナノテクノロジーを活用し、塩水からリチウムを直接抽出するリチウム抽出法(DLE)を開発している。これまで塩水からリチウムを採取する場合には、広大な人工池を作り長時間天日干しする必要があり、効率や収穫率が悪く環境への負荷が大きいといった課題があった。こうした従来の方法とは全く異なるアプローチでリチウムが抽出できる技術として注目されている。この他には、米国発のLilac Solutionsも、イオン交換技術を用いてリチウムを抽出する技術を構築しており、土地や水への影響を無くしながら高い回収率を実現できるとしている。2月には、排出量の低減に取り組むLower Carbon Capitalや、ビル・ゲイツ氏らにより設立された脱炭素に関する投資を行うBreakthrough Energy Ventures、住友商事のCVCであるPresidio Venturesなどから1億5000万米ドルの資金調達を実施したと発表した。

 国内では、上場企業の住友金属鉱山が、チリで塩湖かん水からリチウムを抽出するDLEの実証実験を開始するとしている他、弘前大学が塩湖や水中などから高純度なリチウムを効率的に回収できる電気化学ポンピング技術を開発したと発表している。

その他素材

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を5社、国内企業を3社分類している。

 2024 GCT100では、金属3D用のパウダーやバッテリー材料を環境負荷を低減したプロセスで製造可能なマイクロウェーブプラズマ技術「UniMelt」を開発する米国発の6Kや、導電性銅ナノインクを開発するイスラエル発のCopprintなどが選出されている。同社の技術を活用することで、水や化学物質を使用せず、環境負荷の少ない方法で電子回路の形成を行うことができる。国内企業では、エレファンテックがナノ化した金属をインク状にし基材に印刷する技術で、従来よりも省資源化やコスト効率の向上が可能なプリント基板製法を開発している。

循環資源

 循環資源分野におけるクリーンテック企業を、3つの小カテゴリーに分け紹介していく。

AI廃棄物管理

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を3社、国内企業を2社分類している。

 AI廃棄物管理の世界市場規模は、2022年に19億8000万米ドルと評価され、CAGR22.8%で推移し、2030年には122億6000万米ドルに達すると予想されている。AIはこれまで手作業で行われていた廃棄物の識別、分別を自動化しデータ分析を行うことで、効率化やリサイクル率の向上に貢献している。プラスチックやペットボトルといった家庭ゴミから電子機器などの産業廃棄物まで、さまざまなゴミの分別に対応することができる。

 2024 GCT100選出企業の英国発Greyparrotによれば、15トンのPETを手作業で分別するのにかかる時間が375時間であるのに対し、同社のAIシステムを活用すれば精度を保ちつつ6時間に短縮できるという。AIを活用することで、大幅に時間とコストを削減できることが分かる。Greyparrotは2月、オランダのリサイクル大手Bollegraafとの提携を発表し、同社のリサイクル設備向けAI廃棄物管理システムの共同開発に取り組むと同時に、Bollegraafのネットワークを活用した市場拡大を進めるとしている。

 国内では、東京大学発のEVERSTEELが鉄のリサイクル原料である鉄スクラップをAIで解析し、不純物を判別する仕組みを構築している。これまで属人化していた作業をAIが担うことで、品質を安定させ効率的に鉄のリサイクルを行うことができる。2023年9月には、米国やアジアでアーリーステージのテック系スタートアップへ投資を行うDCMベンチャーズより、2億円の資金調達を行ったと発表した。

リサイクル

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を6社、国内企業を4社分類している。

 バッテリーや金属など特定の分野に特化したリサイクル技術の構築を行う企業を分類しており、例えば、2024 GCT100では使用済みリチウムイオン電池のリサイクル技術を開発するシンガポール発のGreen Li-ionが選出されている。リチウムイオン電池のリサイクルは、技術的な難易度とコスト高が課題とされるが、同社はプロセスの短縮化によりコスト低減を実現したリサイクル技術を構築している。

 リチウムイオン電池のリサイクル市場は2022年に65億米ドルと評価され、CAGR20.6%で推移し、2031年には351億米ドルに達すると予想されている。EVやスマートフォンの普及によりリチウムイオン電池の需要が拡大した事を受け、リサイクル市場でも急速な市場拡大が見込まれている。特にEV化が進むEU域内では、2023年8月にバッテリー製品による環境負荷を低減することを目的として、リサイクルを含めたバッテリーのライフサイクル全体を規定する欧州バッテリー規則が施行された。カーボンフットプリントやリサイクル材料の最低使用割合、廃棄バッテリーの回収率などを申告する必要がある。こうした政府の規制もバッテリーのリサイクル市場拡大を後押ししている。国内企業では、日本原子力研究開発機構発のエマルションフローテクノロジーズが、溶媒抽出技術を活用しリチウムイオン電池を中心としたレアメタルをリサイクルする技術を開発している。

 この他には、太陽光パネルのリサイクル技術を開発するフランス発のROSIが選出されている。同社は、太陽光パネルに含有するシリコンなどの素材を高純度で回収する技術を構築している。太陽光発電は脱炭素化に貢献するエネルギー源として世界的に普及しているが、パネルの寿命は20~30年とされ大量廃棄の問題が懸念されており、リサイクルシステムの構築が求められている。同社は2022年に伊藤忠商事との資本業務提携を発表しており、伊藤忠商事がこれまで推進してきた太陽光発電事業のノウハウを活用し、太陽光パネルのリサイクルシステム構築に向け協力していくとしている。

 この他には、微細藻類の金属吸着能力を活用し、工場廃液などから金やパラジウムなどの有価金属を吸着する技術を開発する国内企業のガルデリアなどを掲載している。

モニタリング・管理分析

 本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を4社、国内企業を4社分類している。

 データ分析を活用し森林や設備などのモニタリングを行うことで、環境負荷低減を目指す企業を分類している。例えば、2024 GCT100選出の英国発Dendra Systemsは、リモートセンシングや機械学習、ドローンなどを活用し、環境保全と生態系の復元に取り組んでいる。鉱山跡地や農業で荒廃した土地にドローンを飛ばしデータを収集、AIで分析することで、その土地にどの種類の植物を植えるのが最適かを割り出し、ドローンで種まきを行う。その後も定期的に生態系の回復具合を調査し、採掘業者や政府機関、インフラ関連事業者といったクライアントへ報告する仕組みとなっている。国内企業では、Archedaが、衛星データをAI解析することで森林のCO2吸収量や破壊状況をモニタリングするサービスを構築している。

 森林破壊の主な原因は、農地開拓、採掘、道路などのインフラ開発による森林伐採で、人間の活動によるものである。2020年の世界の森林面積は陸地の31%に当たる40.6億ヘクタールで、過去5年間に毎年1000万ヘクタールの森林が破壊されてきたと推定されている。2021年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では、世界100カ国以上が2030年までに森林破壊を停止する宣言に署名しているが、実現は難航しており、解決に向けた多様な取り組みが求められている。

 本カテゴリーでは、この他に、石油やガス業界向けに航空センサーによるメタン漏洩検知システムを運営する米国発の2024 GCT100選出企業Kairos Aerospaceを分類している。メタンの地球温暖化への影響はCO2の80倍とも言われており、井戸やパイプラインからのメタン漏洩を防ぐことが重要となる。メタンは無臭で肉眼で見ることができないが、同社は、高度な航空センサーによるモニタリングを行うことで、漏洩場所や規模を特定している。2月には、投資運用会社のBlackRockなどから5200万米ドルの資金調達を行ったと発表した。尚、同社は3月に社名をInsight Mへ変更している。

その他

 本カテゴリーでは、他のカテゴリーに分類されない2024 GCT100選出企業を3社、国内企業を1社分類している。

 2024 GCT100では、エネルギー使用量と廃水量を削減する繊維印刷染料技術を開発する中国発のNTXが選出されている。繊維産業の環境課題として水の大量消費があり、コットンTシャツ1枚を作るのに必要とされる水の量は2700リットルで、1日2リットルの水を飲むとすると約3年半分に相当する。また、水質汚染の20%が繊維産業の染色や最終製品加工に起因するとされており、繊維に使用される環境汚染物質や水の利用を低減する技術が求められている。NTXの染色技術では、水の使用を90%、染色料を40%削減できるとしている。国内企業では、水問題の解決に取り組む企業として、使用した水の98%以上を再生する技術の開発を行う東京大学発のWOTAを挙げている。同社は、AIを活用した水処理技術による小規模分散型水循環システムを開発し、持ち運べる水処理場として災害時などでも活躍する「WOTA BOX」の運営を行っている。

 この他には、電気モーターの軽量化やエネルギー効率化を実現する米国発のInfinitumと、太陽光発電プロジェクトへの投融資プラットフォームを構築するドイツ発のEcoligoが2024 GCT100に選出されている。

日本企業が脱炭素に取り組む中でスタートアップの役割は大きい

 本レポートでは、Clean Tech Groupが発行するGlobal Cleantech 100 (2024年)の選出スタートアップをもとに、各カテゴリーで類似する日本のスタートアップも合わせて取り上げている。

 世界的に、マイクロソフトやフォルクスワーゲンなどの大企業が、クリーンテックに特化したファンドやスタートアップへの出資を強化しているトレンドが見られる。このトレンドは日本も例外ではなく、大企業がグローバルな脱炭素ファンドへの出資を行うケースが増えてきている。

 大企業が自社内で開発・商業化できない技術をスタートアップが持っていることがクリーンテック分野では多く、今後も本マーケットにおけるスタートアップの役割はさらに大きくなっていくだろう。

著者について

高 実那美

ケップル New Business Development Manager

新卒で全日本空輸に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わる。