現地での損害査定はなし 異常気象から農家を救う「パラメトリック保険」に注目が集まる

AI要約

フィリピンでの農業被害から救われた新しいパラメトリック保険のシステムについて

これにより、被災者の迅速な支援や地域の復興が可能になる

パラメトリック保険の普及が進み、気候変動に脆弱な地域に新たな対策が提供される

現地での損害査定はなし 異常気象から農家を救う「パラメトリック保険」に注目が集まる

2児の父で、フィリピンで農業を営むジョエマー・フローレス(28)は、険しい丘と川に挟まれた一家の農地を指差し、2022年に起きた大雨と暴風で畑が壊滅的な被害を受けたときのことを回想する。

「とても落胆しましたよ」

フローレスは、苗や肥料の購入のために資金を借りていたが、収穫がなければ返済もできないし、新たな苗を購入することもできない。

しかし、幸運だったのは彼が資金を借りた地元の協同組合が実験的な保険に加入しており、災害後に資金を得られたことだった。協同組合はすぐさまフローレスに新たな融資を実行した。

通常、災害後の保険金の支払いには現地での査定が必要で、多くの事務手続きが伴い、数年を要することもある。

しかし、フローレスの共同組合が加入していた「パラメトリック保険」には、保険金の支払いに現地査定がなく、人工衛星によって測定された規定地域の降雨量や風速に基づいて保険金額を算出し、自動で支払い処理が実行される。

フローレスのケースでは、数週間以内に共同組合の口座に入金された。この保険は洪水や台風のほか、熱波などにも対応している。迅速に保険金が支払われることで、被災者の懐が潤うだけではなく、災害後の迅速な地域復興も可能にするのだ。

フィリピン紙の「マニラ・タイムズ」はパラメトリック保険についてこう書いている。

「2013年にフィリピンを台風30号(HAIYAN)が襲ったとき、残念なことにフィリピンの組合はパラメトリック保険に加入していなかった。もし当時加入していれば、経済的な損失をすぐに補い、復興活動も大幅に改善されていただろう」

米誌「ファスト・カンパニー」によれば、衛星による気象モニタリングとコンピュータによる自動支払いが特徴のパラメトリック保険は決して新しい仕組みではない。すでに欧米諸国では導入されているのだが、気候変動に特に脆弱な地域では普及が進んでいないのが現状だ。

フローレスの協同組合が加入していた保険は、フィリピンを拠点とする企業CLIMBS保険組合とルクセンブルクに本社を置く保険会社と協力して提供が始まったものだ。

このようなパラメトリック保険はいま、発展途上国でも広がっており、酷暑による収入減など従来の保険では対応できなかった新たなリスクにも対応するものだと、ファスト・カンパニーは解説する。

事例として、インドのある企業では気温が一定の「安全レベル」を上回ると工場の操業を停止する。その場合、日雇いの収入者はその日の収入を失うことになってしまうため、パラメトリック保険によって損失の一部を補填している。

日本ではまだパラメトリック保険商品は少ないのが現状だ。だが、気候変動によって脆弱性が高まる地域が増えるなか、このような迅速な支払いを可能にする保険へのニーズはさらに高まるだろう。