『ガールズバンドクライ』を本気レビュー 仁菜は「うっせぇわ」の擬人化!? 「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考える

AI要約

『ガールズバンドクライ』は、魂のバンドアニメであり、覇権アニメとして多くのファンを獲得している。

主人公の井芹仁菜の超こじらせた性格が共感を呼び、時代性を反映している。

仁菜の自傷的自己愛やAdoの「うっせぇわ」という性格が時代の若者の共通する部分を象徴している。

『ガールズバンドクライ』を本気レビュー 仁菜は「うっせぇわ」の擬人化!? 「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考える

 少女たちのやり場のない気持ちがロックと共に解放される、魂のバンドアニメ『ガールズバンドクライ』。春アニメとして登場すると、魂を揺さぶる良質な音楽と、心を打つストーリーテリングにより、多くのファンを獲得。今期の覇権アニメに推す人も少なくなく、筆者もその意見に完全に同調する1人です。

 なぜ「ガルクラ」はこんなにも我々の心に刺さるのでしょうか? その理由は何よりもまず、井芹仁菜を主人公に抜擢したことだと筆者は考えています。

 今回は仁菜の性格と現代の時代性をクロスさせながら「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考えてみようと思います。本記事はネタバレを含むため、本編を見てから読むことをおすすめします。

 仁菜の超が付く程こじらせた姿を見た時に思ったのは「分かるなぁ」という共感と、Adoの「うっせぇわ」みたいな性格だなぁという感想でした。仁菜も「うっせぇわ」も時代精神を反映したものだと筆者は考えています。どういうことなのか、この点を把握する時にキーワードとなるのが、精神科医・斎藤環氏が提唱する「自傷的自己愛」という概念です。

 自傷的自己愛とは、簡単に言えば自分を傷つける考えや行動を繰り返す一方で、自分に強い関心を持つことから逆説的に自分を愛している状態のことを言います。「自己嫌悪」と「自己愛」の狭間でもがいている状態と考えると分かりやすいかもしれません。

 近年この自傷的自己愛に陥る若者は増えているとされており、筆者自身も自己卑下しがちなのでこの感覚は良く分かります。そして筆者には仁菜もまた自傷的自己愛に該当する人物に見えるのです。

 例えば、仁菜は仲良く話しかけてくるドラムのすばるに対してやたらと警戒したり、でも距離を取ったら取ったで本当はひとりぼっちは嫌だから家で泣いてしまったりと…とにかく面倒くさい性格です。第3話で桃香が言うセリフも印象的で「仁菜は気が弱いくせに意固地で、臆病なのに自信家で、自己矛盾のコンプレックスの塊で」と仁菜の性格を的確に説明していました。

 桃香が言う通りで、仁菜は常に相反する感情を抱えて葛藤状態に自分を追い込んでしまう癖があります。その姿はまさに自分が嫌いだけど、同時に根底の部分では自分を愛している自傷的自己愛の状態と重なります。

 そして2020年に登場し社会現象化したAdoの「うっせぇわ」も、仁菜と似たような性格を持っています。「ナイフの様な思考回路持ち合わせる訳もなく」と自分を卑下したかと思ったら「うっせぇうっせぇうっせぇわ、あなたが思うより健康です」とサビで自己愛を爆発させています。

 このように「うっせぇわ」は基本的にAメロからBメロで自己卑下、サビで自己愛という形で、自傷的自己愛を繰り返す構成になっているのです。